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【レポート】第55回 社会事業家100人インタビュー:(特)ORGAN 理事長/長良川温泉泊覧会プロデューサー 蒲 勇介氏

2018.05.07

社会事業家100人インタビュー第55回
先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ

2018年4月6日(金)19:00~21:00
於:ETIC.ソーシャルベンチャー・ハビタット

(特)ORGAN 理事長/長良川温泉泊覧会プロデューサー 蒲 勇介さん

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プロフィール:
郡上市に生まれ、岐阜市に育つ。国立岐阜工業高等専門学校電子制御工学科卒業、ロボットを学び九州芸術工科大学芸術工学部画像設計学科に編入、デザインを学ぶ。在学中から先輩の起こしたベンチャー企業でデザインの仕事にのめりこみ、3年目にフリーランスとして独立。その後、岐阜市に戻ってまちづくりに関わる。長良川流域のつながりの中に、この地域のアイデンティティ(本質的な個性)を見出し、流域をつなぐ観光まちづくりに取り組んでいる。
 
<今回のインタビューのポイント>(川北)
地域が好きな人、地域を仕事の題材にする人、地域の課題に挑む人は、それぞれに数多くいる。しかし、それらをすべて体現するには、自らの技能や時間を存分に投じて率先して取り組むことを通じて地域に貢献し、周囲の人々に信頼や期待を受け、協力してもらい続けることが不可欠になる。「何もない」と言われ続けた地域が変わるきっかけは、その地域の住民自らの視野と価値と行動の拡がりにあることを、蒲さんの実践を通じて学んでほしい。
 
怒りとコンプレックスが活動の源泉に
大学の時に、(今日の会場である)(特)ETIC. のウェブサイトで「社会起業家」という概念を初めて知りました。ちょうど特定非営利活動促進法ができた頃で、NPOに注目が集まっていましたが、社会課題解決とビジネスを結びつけるという考え方にあこがれました。
岐阜県民にはなぜか自己肯定感が低い人が多く、私もかつては多くの若者同様、「岐阜は何もないところ」という認識でした。ただ、「だから東京へ行こう」とは思いませんでした。私の現在の活動の源泉となったのは、端的に言えば、名古屋の植民地のような位置付けに対する怒りとコンプレックスです。人々の心のベクトルが、地元を肯定する方向に行かないのはなぜだろうと考え、地域経済学を学んだ大学では、東京を頂点としたヒエラルキーが存在し、誇りもお金も人も吸い取られている現実を知りました。
今なら、東京の人に「岐阜ってどんなところ?」と聞かれたら、胸を張って「日本一の和傘のまち」と答えます。和傘の80%は岐阜産なのですが、実は地元の人もあまり知りません。岐阜でつくられたほとんどの和傘は、京都や金沢で高く売られてきたからです。
 
岐阜が持つ地域資源の豊かさに気付く
2003年に創刊した季刊フリーペーパー「ORGAN」(~04年/7号まで発行)の取材を通して、長良川の歴史や環境と密接に関係するモノやコトの深いストーリーに気付きました。その中から、岐阜市の伝統工芸品「水うちわ」の復活プロジェクトが生まれ、デザインも手掛けることになりました。現在は伊勢丹新宿店でも販売しており、定番の人気商品です。8,000円前後という高価格でも、商品の価値を認めて買ってくれる人がいるという驚きとうれしさ。こうして水うちわは、自分にとってブレークスルーするきっかけとなりました。
ORGANの法人化(2011年)前は、仲間と一緒に、まずは地域のことを知ろうと、既存のまちづくり活動に混ぜてもらうかたちで、町家保存・活用の運動にかかわったり、岐阜町若旦那会をつくったり、都市と農村、若者と地域の人をつなぐことを目的に「日本山村会議美濃郡上」を開催したりと、地域資源の魅力を発掘して、私たち自身が楽しめる体験プログラムを展開し、ネットワークを広げていきました。そして岐阜は、山と川と一緒に生きてきた、誇るべき独自の文化を持っているという確信を深めていきました。
 
全員参加の流域型まちづくり「長良川おんぱくスタート
それらの活動の中で、地域資源(地域住民・商店・若旦那会など)と、既存組織(行政・旅館組合・観光協会など)と、地域外の人やこれまでまちづくりにかかわる機会がなかった人たち(若者・女性など)とを結びつけるしくみとして、「オンパク手法」(注1)が有効なのではないか、と気付きました。そこで、オンパクの先進地から講師を招いて勉強会を開催するなどの準備期間を経て、ORGANが事務局となり、2011年に長良川温泉泊覧会実行委員会を立ち上げました。
初開催にもかかわらず「長良川おんぱく2011」が100のプログラムを揃えたのは、地域の既存組織を巻き込むには、ストーリーだけでなく、数字や実績が必要だと考えたからです。準備や企画はとても大変でしたが、それまで取り組んできた活動で出会った仲間がいたので実現できました。2010年の段階で、声がけすれば協力してくれる約150人のリストがあったのです。
オンパク手法の利点は、顧客を囲い込めること。これまで「長良川おんぱく」に参加してくれた人は約6200人。リピーターはSNSで積極的に発信し、新しいお客さんを連れてきてくれます。参加者に参加理由を尋ねてみると「希少な体験ができるから」がトップで、ここでしか得られないコトやモノが求められていることがわかります。
パートナー(注2)となる中小・零細企業や個人にとっては、地元住民や近隣からのお客さんを対象としたテスト・マーケティングの絶好の機会です。ここで得た反応や反省を基に、全国からの観光客やインバウンド向けの新商品開発や起業につなげていくことができます。「ORGANキモノ」(アンティーク着物のレンタル・着付け・町歩き)は、おんぱくから生まれた体験事業のひとつです。
注1:(一社)ジャパン・オンパクのウェブサイトおよび、野上泰生さんのインタビュー記事を参照。
注2:オンパクで、体験プログラムを実施・提供する人や団体。
 
新潟でまちづくりのコーディネーションを学ぶ
観光まちづくりのプロジェクトを(単発で終わらせず)次の展開・発展につなげていくには、異なる立場の人が、一緒に成功体験を積んで自己評価を高めながら、PDCAを回し、プログラムの魅力を高めて集客力を上げる(または新商品を生む)循環をつくっていくしかありません。そのためには、世代や所属が違っても、民主的にフラットに話し合いを進め、お互いの強みを引き出し、評価し合う力が必要です。
まちづくりの現場における、若者や弱者が発言権を持たない状況をなんとか変えたいと、私は新潟に自腹で通い、清水義晴さんや(特)まちづくり学校の大滝聡さんなどの師匠の下で、場づくり・会議手法・ワークショップデザイン・プロジェクト設計など、まちづくりのコーディネーション全般を学びました。
新潟で学んだ手法をアレンジして、話し合いの場やおんぱく関連の研修に取り入れた結果、世代間・セクター間の会話が増え、関係性が良い方向に変わっていきます。個々人の価値観を変えることはできませんが、今では50~70歳代の旅館経営者や財界の人たちは、「次は何やるの?」と期待感をもって聞いてくれるようになりました。
こうして、おんぱく開催で得たノウハウや信頼を生かして、県内の観光まちづくりイベントや協議会の事務局を担当するほか、全国各地での地域おこしをお手伝いしてきました。体験予約webシステム(長良川ASP:アプリケーション・サービス・プロバイダー)も提供しています。このような積み重ねが実り、2017年度の(特)ORGANの事業費は、おんぱく関連を核に約6,000万円、デザイン事務所「ORGANデザイン室」と合わせると約7,500万円でした。ただし、拡大にばかり目を向けると、どうしてもコスト削減や効率化に走ってしまうことになるので、「規模最適」の意識は持ち続けたいと思います。
 
高付加価値の商品を、店舗で開発・販売する
2014年にはネットショップ「長良川デパート」、2016年には実店舗「長良川デパート湊町店」をオープンしました。ワークショップや説明にも力を入れ、商品が持つ文化的な背景や歴史を知ってもらえるように心がけています。1本35,000円もする和傘が、オープンから2年で200本も売れたのには、職人も旅館も驚いています。
ただ、おんぱくというまちづくり手法では、ソーシャルキャピタルは生まれても町の景観は変わりません。具体的にまちを変えていくには不動産の活用という分野に踏み込み、新たな事業者を増やしていかなければならないという思いから、現在築100年を超える町家を3軒賃貸しています。現在、岐阜ならではの新たな活用法を模索しており、「日本一の和傘産地の逆襲!築100年の町家を伝統工芸体験拠点「CASA」にしたい!」と題して、クラウドファンディングに挑戦中です(追記:おかげさまで、目標金額を達成しました!)。
実店舗は、お客さんの反応を確かめられる場。観光客がぱっと見てすぐ買うかどうかで、売れ線がわかります。たとえば、本美濃紙の折り鶴イアリングは、外国人の受けはいいのですが、日本人は別のデザインを選びます。本美濃紙のヘアゴムとヘアピンは、マグネットからの展開で、お土産需要をうまくつかんで、数量(個数)で言えばもっとも売れているものです。職人さんとつながっているので、頼めばすぐ試作品や改良品ができるのも強みです。
 
データを分析し、課題解決のための指標を設定する
2015年に「清流長良川の鮎」が世界農業遺産に認定され、DMO(Destination Management Organization)立ち上げの契機となりました。事業の一環として、エリア全体での観光調査・データ分析を進めたところ、
①エリア全体の観光イメージがバラバラ(長良川と4市(岐阜・関・美濃・郡上)の観光資源がつながって認識されていない)
②エリア内周遊度が低い
③日帰り客が圧倒的に多い
という課題が明確になりました。官民連携で、課題解決のための指標を設定し、ターゲット別に取り組みを考え実行することがDMOの役割です。
流域を周遊してもらって滞在時間を延ばし、長良川のファンをつくるための試みとして、つい先日(2018年3月31日)「長良川体験チケット」をスタート。おんぱくのような期間限定ではなく、40のプログラムから選んで、いつでも好きな体験ができます。チケット付きの岐阜バス1日乗車券もあるので、旅行代理店からもとても良い反応をいただいています。2018年度中には、外国人をメインターゲットに、高単価・高付加価値の流域での伝統文化体験を販売する旅行代理店を自前でつくる予定です。
 
「長良川」という文脈で、すべてを編集する
もともとは私が「面白い!もっと知りたい!」を追求することから始まった活動であり、プロダクト・アウトに陥りがちだという自覚はあります。ただ、ORGANの事業の想定顧客層(ペルソナ)は30歳代の女性であり、編集長をはじめとして、キュレーション(編集)は女性スタッフにかなり任せています。彼女たちは見せ方や切り取り方をうまく整えてくれるので、私のマニアックさが緩和されていると思います(笑)。
一方で、私が自慢したいことに共感してくれる人とつながりたい・新たなファンを増やしたいという思いも強くあるので、マニア枠は残していきます。実際、関市の刀匠による体験プログラムには、全国から“刀剣女子”や、溶接に興味があるという人など、こちらが想定していない層の参加がありました。
ORGANの強みは、デザイン、ビジュアル化、コピーライティングという編集工程がすべて自前でできること、そして、地域資源・人材のネットワークがあることです。ウェブマガジン「長良川STORY」の中で紹介した「鮎菓子ペンケース」は、ツイッターで1000回以上リツイートされ、話題となりました。
定例開催が前提とされるオンパクのようなプログラムは、地域資源をただ寄せ集めるだけでは魅力的になりませんしすぐ飽きられてしまいます。長良川という一つのおおきな文脈(コンテクスト)に、人やモノやコトのストーリー(コンテンツ)を乗せて、ブランドとして表現することが不可欠です。
マンネリ化を防ぐには、創発環境をつくり出すかありません。以前は、ブランドを維持するには、すべて自分を通してコントロールしないとだめだと思っていましたが、それは無理だとわかりました。そこで、ファシリテーションをしっかりした上で、あとは手放すようにしたのです。その結果、地域ブランドが底上げされましたし、「新しい挑戦をしてもいいんだ!」という空気感が生まれ、お互いが刺激し合えるコミュニティへ変化しました。外部からの売り込みも増えています。
 
環境、伝統、文化、経済はすべてつながっている
職人や漁師は後継者難が深刻です。なりわいとして長良川にかかわって生きる人を増やしていくために、まずは和傘を10億円産業にして、うち8億円が岐阜に落ちるようにしたいです。今年から大手小売店との取引も始まり、銀座の店舗でも和傘の販売を行うことになりました。また、刀匠と和傘のすべての製造工程に関わる職人や企業(産業クラスタ)が揃っているのも岐阜だけなので、強みとしてさらに打ち出していきたいです。
文部科学省の「気候変動適応技術社会実装プログラム(SI-CAT)」に、岐阜大学と一緒に取り組んでいます。環境が変化すると、経済や伝統が維持できず最終的には消滅してしまうという危機感を持ったからです。たとえば、和傘の部品「ろくろ」にはエゴノキしか使えませんが、エゴノキをとる木こりがもういないので、今はプロジェクトとして山に切りに行っている状況です。最近はシカの食害が目立っており、持続可能な原料調達の仕組みづくりの大きな壁になっています。
鮎などの魚類と内水面漁業、鵜飼漁法を核とした観光産業、かつて水運でつながった和紙とそこから生まれた伝統工芸産業、そしてそれらが連綿と続いてきた背景にある長良川という環境の力。すべてはつながっているし、だからこそこの川の恵みに生かされているということを住民が自覚し、100年先もこの恩恵に預かり続けられるように、流域を包括する古くて新しい経済圏の再構築が必要だと考えています。
BusinessModel_organ(文責:棟朝)
 
今回の「社会事業家100人インタビュー」ご参加費合計のうち4,000円は、(特)ORGAN(クラウドファンディング「日本一の和傘産地の逆襲!築100年の町家を伝統工芸体験拠点「CASA」にしたい!」)へ寄付させていただきました。

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