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【レポート】第65回 社会事業家100人インタビュー:(特)HELLOlife 代表理事 塩山諒氏

2020.04.09

社会事業家100人インタビュー第65回
先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ

2020年3月16日(月) 19:00~21:00 @東京
(特)HELLOlife 代表理事 塩山諒さん

塩山氏

 
プロフィール:
1984年兵庫県生まれ。2007年に社会変革への衝動を形にしようと「スマスタ」設立。既成概念にとらわれない創造力と、セクターを越えたつながりで、まちの格差や貧困問題解決に挑戦している。2014年度グッドデザイン賞受賞。2016年度「日本財団ソーシャルイノベーター支援制度」で、ソーシャルイノベーター10件に選定される。2017年10月、労働・雇用分野における取り組みを加速させるため「HELLOlife」へ社名変更。
 
<今回のインタビューのポイント>

社会に挑む取り組みの担い手には、社会の課題を知り当事者を尊重する意識(マインド)と、課題の解決や理想の実現に挑む意欲(ガッツ)、そして、それを可能にする技能(スキル)が掛け算で求められる。独創的であるがゆえに前例がなく、理解や協力を即断されにくい課題に、どう立ち向かうか。塩山さんの取り組みの経過と工夫から学んでほしい。
 
ミッションは「Create the NEW PUBLIC」
2007年に起業し、2017年にHELLOlife(ハローライフ)に団体名を改称しましたが、一貫して「Create the NEW PUBLIC(人が輝き働くための公共をつくる)」をコンセプトに、就業支援に関するサービスやプログラム、企業の採用・組織支援メニューを展開しています。また大阪府など行政とともに“若年無業者”の就労支援や、地方版ハローワークの価値拡充にも取り組んでいます。
働かず、学校にも、職業訓練にも行かない、いわゆる“ニート”の若者は、全国に約71 万人いると言われています。いきいきと働いて自立し、社会を支えるべき若者がニート状態にあることは、日本の大きな社会問題です。失業やニート、非正規雇用の問題は、貧困や学歴などと相関関係があると考えられますが、若者の問題は「甘えている」「親の教育が悪い」など自己責任問題と扱われがちで、支援が得られにくいという特徴があります。
そこで、誰もが通る「働く」というステージの機能不全を変革し、希望と安心を失わずに働き続けられる社会環境整備を目指しています。
 
「大阪ニート会議」から始まった“レイブル”応援の社会づくり
2011年11月、ニート状態の若者約100人を集めて「大阪ニート100人会議」を開催しました。大阪府の雇用施策の一環として、新しい就労モデルを検討するこの会議では、ニートに代わる「レイブル(レイトブルーマー:late bloomer=遅咲き)」という呼称を発表し、将来必ず花開く若者たちを、寛容に受け入れ育てていく社会環境づくりを訴えました。その後、大阪府や企業などとともに「レイブル応援プロジェクト 大阪一丸」を開始。これまでの就活の枠を超えた就労モデル「大阪レイブル超就活」の構築や、社員がいきいきと働く職場の実践を調査・共有する「次世代ワークスタイル研究所」の開催にもつながりました。
2013年5月からは、一時的な取り組みではなく、日常的に“レイブル”を応援する仕組みづくりのために、就労・就業支援施設「ハローライフ」を開設しました。発足から今日までの登録利用者数は5,200人にのぼり、たくさんの若者や企業が集う場に発展しています。2017年5月には、総合就業支援施設「OSAKAしごとフィールド」事業を大阪府より受託し、求職者の就職活動とともに、中小企業の採用活動や人材育成を一体的に支援する事業を恒常的に展開しています。
今、力を入れているのは、住宅つき就業支援プロジェクト「MODEL HOUSE」の取り組みです。これまで、所得の低い高齢者やシングルマザーなどの入居が優先されていた公営住宅を、不安定な就労・就業状況を繰り返している若者にも提供し、同時に就職サポートプログラムや、地域コミュニティの一員として暮らすためのコミュニティサポートも続けています。2017年から開始したこのプロジェクトでは、大阪府が公営住宅や就業支援メニューの提供を、日本財団が事業全体のサポートと住宅の改修費を含む事業全体に係る事業費などを負担し、HELLOlifeがさまざまなセクターと協力体制を構築しながら就職・生活・定着支援などの事業運営を行っています。2019年は事業の実施地域である四條畷市も加わり、事業参加者の就職先として地元の中小企業との連携を強化しました。
 
ーゲットは民間参入のない「公共市場」
HELLOlifeの事業の多くは、行政や企業の課題を解決するための企画・運営が中心で、2019年の売上2.8億円のうち約1億円は大阪府からの受託事業です。それ以外に厚生労働省の地域若者サポートステーション事業の受託、企業の求人記事掲載やイベントの企画・運営、就業システムや組織戦略開発サービス、ブランディングなど多岐にわたります。社内にデザインチームを有し、各事業・プロジェクトのブランド設計・制作・運用を手がけられる点も強みと言えるかもしれません。起業当初、独学で学んだデザインの知識や、社会課題を伝わる形に言語化する力やセンスも、さまざまなプロジェクトで生きています。
他方、創業から13年以上が経ち、結婚して子どもが生まれるスタッフもいます。安心して働ける組織づくりのため、近年は年単位の受託事業だけでなく、小規模でも長く続けていける自主事業を増やしています。例えば、あらゆる施策の総合拠点「ハローライフ」(大阪市西区靱本町)では、1階で日本茶スタンド「CHASHITSU」を運営しているほか、証明写真撮影とキャリア相談とを掛け合わせた「内定(うちさだ)写真館」も開設しました。2階と3階は就職の情報やイベントスペース、4階はCHASHITSUで提供するおはぎバーガーなどの製造工場で、自立を目指す若者のジョブトレーニングの場となっています。
また、年2回実施している就職支援プログラム「ハローライフスクール」では、就活テクニックではなく、「どう働き、どう暮らしたいか」という自分の軸を手に入れ、納得できる就職をサポートしています。グループワーク形式の講座やキャリア相談のほか、企業合同説明会も定期的に開催しています。
HELLOlifeの支援対象は、民間企業が多く参入する高度人材でも、行政の福祉制度受給者でもない、その間にいる人々です。具体的には、非正規雇用2036万人、ワーキングプア1139万人、若年無業者71万人。つまり、民間参入も公的支援もない「公共市場」にイノベーションを起こし、次代の公共システムを創造する−−−。それこそが、私たちの役割だと思っています。
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22歳で起業、最初は「ごみひろい」から
HELLOlife(当時の名称はスマイルスタイル)を立ち上げたのは22歳のときです。僕自身、小学校の途中で学校に行けなくなり、最終学歴は小学3年生。学歴がないことで苦しんだ時期があり、社会に出て働いたりボランティア活動を始めたりしてからも、かつての自分と同じように不登校になってしまう子どもたちのことが気がかりでした。彼らを見る目は、依然厳しいままです。「社会を変えたい」「動かす側にならなければならない」と思うようになりました。
最初に始めたのは「ごみひろい」です。“何かしたい”と思う若者が、おしゃれなごみ袋を片手に集まり、友だちをつくりながら気軽にできます。儲かる仕事ではありませんでしたが、地域別のごみひろいや無人島などでのイベント型企画も実施し、地域のお店や自治会などいろんな人とのつながりができました。参加者が増えメディアに取り上げられると、大阪以外の自治体や広告会社、企業などからも問い合わせが来て、社会貢献型のプロジェクトの相談が次々と増えていきました。おかげさまで今はたくさんのお仕事をいただいて自主事業も進めていますが、いろんな人と接することができるごみひろいは、今も続けています。
HELLOlifeには今、40人ほどが働いています。組織運営上の課題は、ビジネスモデルの見直しと評価制度の整備です。賞与やインセンティブの設計も練っていきたいと思っています。いずれは世界に通じるコンテンツをつくりたいです。
 
誰もが自分らしく生きていける社会づくりを
行政と連携して実施するプロジェクトが多くありますが、あくまで民間の立場で、かつHELLOlifeにしかできないことを続けていきたいと考えています。
求職者と企業の皆さんとがより多くの接点をもち、つながっていけるよう、現在進めているのが、駅や駅前デパートなどにおける就労支援プログラムです。2020年2月には、大阪駅直結のファッションビルLUCUA osakaで「コタツ就活EXPO」を開催しました。大阪の中小企業約50社が参加し、企業と就活生がコタツに入ってみかんを食べながら、ざっくばらんに互いの“本当のトコロ”を共有し、次への一歩を踏み出す空間を提供しました。
HELLOlifeのポリシーは「人生に向き合った価値の提供」「時代のニーズに即した新しいソリューションの開拓者になる」の2つ。これからも、「働く」にまつわるさまざまな事業を通じて、誰もが自分らしく生きていける社会づくりに貢献したいです。

(文責:エコネットワークス 新海、渡辺、近藤)

今回の「社会事業家100人インタビュー」ご参加費合計のうち4,500円は、(特)HELLOlifeへ寄付させていただきました。

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