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【レポート】第64回 社会事業家100人インタビュー:(特)まちづくり学校 理事 山賀 昌子氏

2020.03.17

社会事業家100人インタビュー第64回
先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ

2020年2月24日(月・祝) 18:00~20:00 @新潟
(特)まちづくり学校
 理事 山賀 昌子さん

山賀 昌子氏

プロフィール:
山賀 昌子(やまが まさこ):
建設コンサルタント会社勤務を経て、2000年のまちづくり学校設立時の1年間と2011年から2019年4月まで事務局長を務める(現在は理事)。まちづくりに関わる人材育成研修の講師、ワークショップの企画運営などの活動支援、まちあるきの企画運営および支援等を行う。
 
<今回のインタビューのポイント>
地域づくりは、普遍的に求められると同時に、その地域の特性を踏まえて個別的に進める必要がある。つまり、普遍的な存在でありながら、個別的に対応する技能が求められるという、難しい役割でもある。その担い手や促し役を、官民の隔たりなく、どう育て続けるか。20年にわたって、地域で活躍する数多くの修了生を生み続けている同会の経過から学んでほしい。
 
まちづくりを担う人材を、20年以上育成しつづける
まちづくり学校は、自分たちのまちを自分たちでよくしようとする人材の育成を中心に、各地のまちづくり活動を支援するNPOで、2000年に設立され、今年で20年を迎えます。主な事業は、「まちづくり」に関する研修の企画・運営です。自治体や企業などから委託を受けて、新潟県内で研修を数多く開催してきました。
団体の理念は「まちをつくるひとをつくる」。どこに「、」を入れるか気になる一文ですが「まちをつくるひとを、つくる」「まちをつくる、ひとをつくる」のどちらでもかまいません。2年ほど前に理念を見直し、こちらになりました。加えて、「自ら行動する人を育て、共に学び合う関係を築く」、「現場に寄り添い、足りない仕組みを提供する」、「個性あるまちと人が輝く社会を創る」という3本柱を掲げ、活動しています。
学校らしく「校則」も掲げています。1つめは、「やぶへび精神」。やりたい人がやるという精神です。大変なことにあえてチャレンジする気持ちを大切にしています。2つめは、お互いに助け合う「根性よし精神」。そして3つめの「めだかの学校精神」は、職種、年代もバラバラの人たちが集まっているからこそ「みんなが生徒、みんなが先生」というフラットな関係で活動しましょうということです。これらの校則を大切にしながら、活動を続けてきました。
 
きっかけは「やぶへびの会」
設立のきっかけは、1995年に新潟県地域政策課のよびかけで、県内各地から官民のまちづくり実践者が集まり、「やぶへびの会」ができたことでした。この会の趣旨は地域情報誌の制作でしたが、月1回の会議で議論するなかで、「県内のまちづくり情報の集約と、地域づくりを担う人材の育成が必要」という話になりました。それも、かつての地域づくりを引っ張ってきたリーダー的存在ではなく、さまざまな人をつなぐコーディネーターが求められていると一致したのです。こうして始まったのが、「まちづくりコーディネーター養成講座」(現:地域づくりコーディネーター養成講座)でした。当初は県の外郭団体が主催し、その後、主催者や名称を変えながら、現在まで続いています。
回を重ねるうちに、講座内容をもとにテキストを製作することになり、1999年に発行したのが『にいがたまちづくり事典matidas(マチダス)』です。刊行後も、講座や地域づくり活動の現場で蓄積した経験を反映して改訂を重ね、2018年6月の全面的なリニューアルを経て、今もまちづくり学校の講座で使っています。
コーディネーター養成講座には、多くの「やぶへびの会」メンバーが関わっていました。その後、県からの要請もあって組織化されたのが、「参加のまちづくり研究会」(任意団体、1999年設立)です。同年は特定非営利活動促進法(NPO法)施行直後の年。総合的な人材育成を行うには、法人組織になるのが良いのではないかと、議論を重ねたうえで、法人認証を受けて登記することにしました。設立メンバーには、やぶへびの会だけでなく、コーディネーター養成講座を修了された方々も加わってくれました。
 
事務局は小さく、理事は県内あちこちに
まちづくり学校が他の多くのNPOと大きく異なるのは、事務局が小さいことです。大きなNPOは専属スタッフ数名が事業の中核を担い、理事が方針や予算を決めるケースが多いですが、まちづくり学校は違います。事業の依頼があると、1~3名の事務局から20名ほどの理事に呼びかけて、チームを組んで進めます。各チームのリーダーとマネジャーは、依頼された業務内容にもとづいて決めますが、自薦の場合も他薦の場合もあります。
理事は新潟県内全域のあちこちに住んでいるので、普段はメールやメッセンジャーで連絡をとり、資料はオンラインのストレージで共有。理事には、働いた分の報酬を支払っています。
理事が個性豊かな点も特徴です。理事はそれぞれ本業を持っており、グラフィックデザイナー、編集者、建築家、フルタイムの会社員など職種も多様です。年代も20歳代から70歳代までいます。そのおかげで、幅広い視点で話を進めることができます。
 
立場を越えたつながりと、人材育成の循環
新潟県内は、住民主体のまちづくりが活発です。行政職員も「市民と一緒にやろう」という気持ちが強い地域が多いですし、活動を支援してくださる方や団体も多いです。何より、住民の方たちがご自身で熱心に学び、活動されてきたからこそだと思います。新潟のまちづくりが活発なのは、必ずしも私たちによる成果だけではありません。
その前提の上で、私たちがどのように新潟県内のまちづくりに貢献できたかを考えると、ひとつは、「コーディネーター養成講座」が人材育成の循環の原動力になっていることが挙げられると思います。1996年の初回から昨年の第24回までの受講生の総数は674人になりました。1泊2日の研修を2回おこなう計4日間の講座で、全ての研修に出るという前提の上で、行政、民間を問わず誰でも参加できます。そのため、毎回10歳代から80歳代までの年代、職種、立場も異なる受講生が集まります。研修は県内各地で開かれる合宿形式で、「同じ釜の飯を食う仲間」として生活を共にしながら、座学だけでなくフィールドワークもしながら学ぶことを大切にしています。
市民と行政の間には対立が起こることもありますが、この研修ではそうした垣根は次第になくなっていきます。たとえば都市計画づくりの演習では、それぞれの立ち位置による考えの違いが出てきますが、「なぜそう考えるか」を聞くことで、お互いの立場を理解し合えるようになるのです。研修は学びの場であると同時に、人と人との相互理解を深め、ネットワークづくりをする場になっています。
 
修了生が、各地で活躍!
修了生は、各地でまちづくりに取り組んでいます。コーディネーターとしてまちづくりを支援する人もいれば、実践するプレイヤーも、そして、まちづくり学校の会員や理事として、各地での活動を作っていく人もいます。まちづくりの現場で活躍する修了生は、行政にとっては協働のパートナーになる存在ですので、新潟県内各地で協働のまちづくりが増えていくことにつながったと思います。
県内の地域づくり活動が増えているので、私たち自身も、各地でのお手伝いをすることが増えました。その地域に修了生がいると、事前に話を聞いたり、一緒に関わってもらったりと、現地との縁をさらに深めることができます。お手伝いくださる修了生も、自身のまちでの活動を通じて学びを深めることができるし、活動を前に進めることができる。そんな循環が生まれています。
25年前に開催されたコーディネーター養成講座第3期の受講者に、糸魚川市の職員の方がいました。数年前に課長に就任され、今度は市の事業として、コーディネーター養成講座開催を実現。同市には中間支援組織がないため、コーディネートを担える市民を育てたいという想いをお持ちでした。同市内にUターン・Iターンした女性2人がこの講座を受講し、終了後に自らの構想をもとにNPOを設立、地域の温泉を市から業務委託を受け運営し始めました。周辺の高齢者の憩いの場でありながら、運営管理の引き受け手不在により存続の危機にあった温泉を立て直したのです。
2013年から始めた、地域の魅力を発見するまちあるき事業「ブラニイガタ」は、これまでに参加者、スタッフを合わせると2000人以上が関わっています。新潟県内の私たちのネットワークを活かしたもので、開催地との関係がさらに深まりますし、その地域で活動している方々を後押しすることにもつながります。各地で企画運営をお手伝いした「観光ボランティアガイド養成講座」から活動を始めたガイドさんたちに案内してもらうこともあります。この事業は先ほどの糸魚川市でも、地域計画づくりのワークショップを開催した地区で実施し、住民と参加者で地域の魅力を分かち合い、活動を盛り上げることとなりました。
JSE100_第64回完成稿
これからは、小さなコミュニティの担い手育成も
今まで20年にわたって、まちづくりに携わる人材を育て続け、人材育成の循環を生み出し、県内の地域づくり活動をサポートしてきました。これから人口減少に伴い社会が縮小していく中で、より小さな地域コミュニティにおいても地域の今後のあり方を自分たちで決め、担うことができるようにしていくことがさらに必要と思います。その必要性を伝えつつ育成の対象を広げ、私たち自身がそのノウハウを構築して提供できるようにしていきたいです。
一方で、課題もあります。それは、収入の多くを委託事業に頼っていること。委託事業は依頼されないと成り立たないため、運営を安定させるためには、企業とのコラボレーションや、自主事業の充実などを進めていきたいです。
また、NPO法人として活動しているからか、ボランティアで働いているイメージを持たれ、委託費や報酬が高額と捉えられることもあります。しかし、私たちのような役割は専門性もあり、さまざまな領域で必要と考えていますので、ご理解いただけるよう、努めています。
最近では、ありがたいことに県外からのご依頼も増えています。今後は、県内での事業も大切にしながら、県外でもまちづくりのノウハウを広め、様々なニーズに応え、まちづくりを盛り上げていきたいです。

(文責:エコネットワークス 曽我、渡辺、近藤)

今回の「社会事業家100人インタビュー」ご参加費合計のうち2,000円は、(特)まちづくり学校へ寄付させていただきました。

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