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【レポート】第62回 社会事業家100人インタビュー:(公財)共用品推進機構 専務理事兼事務局長 星川 安之氏

2019.11.08

社会事業家100人インタビュー第62回 先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ

2019年10月9日(水) 19:00~21:00
於: ETIC.ソーシャルベンチャー・ハビタット
(公財)共用品推進機構 専務理事兼事務局長 星川 安之さん

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プロフィール:
1980年玩具メーカーのトミー工業(株)に入社、新設の「H・T(ハンディキャップ トイ)研究室」に配属される。1999年(財)共用品推進機構設立時より事務局長・専務理事を務める。平成26年度工業標準化事業 経済産業大臣表彰受賞。著書に「共用品という思想」、「アクセシブルデザインの発想」共に岩波書店など
 
 
<今回のインタビューのポイント>
社会の課題に挑むのは、その課題の当事者や、課題解決のために起業する人々だけではない。ただ、企業が本業を通じて課題に挑み、結果として顧客や市場を拡げることは、望ましいこととはいえ、収益性を問われて難航することが多い。この問題に1980年代から向き合い、一般製品と福祉製品の重なり合う領域として「共用品」というカテゴリーを開発し、国内外で規格として拡げる取り組みを積み重ねてこられた星川さんをはじめとする共用品推進機構から、当事者と課題を理解することの重要性を再認識していただきたい。
 
 
みんなが利用しやすいもの・サービスを増やしたい
共用品・共用サービスとは「身体的な特性や障害の有無にかかわりなく、より多くの人々が共に利用しやすい製品・施設・サービス」のことです。共用品が公になる前は、障害者や高齢者が使う「福祉用具」と「一般製品」は分かれていました。それが、障害の有無を問わず一緒に学ぶ統合教育の推進や、各種条例、法律、ガイドラインの制定、高齢者の増加によるマーケットの拡大、1981年の国際障害者年を契機として、障害や身体特性に関わらずより多くの人が共に利用できる製品が検討されるようになったのです。
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共用品は、身のまわりにたくさんあります。たとえば温水洗浄便座は、もともと1960年ごろにスイスとアメリカで、手が不自由な方向け、および痔の人のために開発された医療機器でした。これを日本企業が福祉施設向けに販売したところ、一般に普及していきました。日本生まれの共用品に多いのは、障害者や高齢者の一般製品での不便さを取り除いたものです。シャンプーボトルを区別するための突起や音声案内のついた家電など、ちょっと家の中を見回すだけでも、多くの共用品を見つけられます。共用品の日本国内における市場規模は、約3兆円になりました。
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シャンプー・ボディソープ ボトル上部と脇の突起。リンスと区別するために、洗髪用シャンプーやボディソープには触ってわかるギザギザやたてのラインがついています
 
 
大学時代の「気づき」が共用品開発のスタートに
私が共用品に関わるようになるルーツは、大学時代の経験にさかのぼります。重複で重度の障害のある子どもたちの施設を手伝うなかで、保育士から「ここの子どもたちが使える市販品が少ない」と聞き、挑戦しがいのある応用問題だと思ったのです。そこで、おもちゃ会社なら携われるのではないかと考え、トミー工業(株)(現在の(株)タカラトミー)に就職。初代会長の遺訓「世界中の子どもたちが遊べるおもちゃを」を踏まえて、「H・T(ハンディキャップ トイ)研究室」が新設され、入社半年後に配属されました。
ところが、社内にいてもなかなか切り口を見いだせません。私は障害児施設を訪問し、子どもたちに話を聞くことにしました。1年目は約1,000人に出会うことになります。その成果を役員会で報告したところ、拍手をもらえて安堵しましたが、担当の副社長から鋭い指摘を受けるのです。「研究だけではおもちゃメーカーとは言えない」と。会社で働く以上、成果を出さなければいけません。私は数多くの子どもたちと会ったことで、おもちゃを作れる感触を得ていました。そうして開発した、視覚に障害のある子が遊べるようオルゴール音が鳴るボールは、子どもたちに受け入れられ、新聞に載るなど話題になりました。
その後は、一般のおもちゃに工夫をし、電源のオン側に小さな突起をつけて触れてわかるようにするなど、障害の有無を問わず共に遊べる「共遊玩具」に進化させていきました。そして、できあがった玩具が「視覚障害、聴覚障害がある子と一緒に遊べることをどうやって伝えるのか」という課題に関して、パッケージに、盲導犬マークやうさぎマークを付けたのです。さらに「トミーだけで取り組んでいてよいのか」という指摘に応えて、当時の会長を通じて日本玩具協会の理事会に諮ることとなりました。一社の取り組みがおもちゃ業界全体に発展していったのです。

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日本玩具協会の盲導犬マーク・うさぎマーク

 
市民団体の結成が大きな転機に
業界の取り組みが広まるうちに増えてきたのが、他業種からの問い合わせでした。おもちゃの業界団体に入ってもらうわけにもいきません。そこで、関心ある方に声をかけて立ち上げたのが、様々な業界の共用品について考える市民団体「E&C(エンジョイメント・クリエーション)プロジェクト」です。最初は20名程度の小さな団体でしたが、最終的には約300社・400名ほどが集まりました。
今振り返って言えるのは、一企業ではできないことをやるのが、会社や業界の枠を超えて集まった市民団体としての価値だったということです。当事者の不便さを知らなければ、障害がある人たちが望むものは作れません。ところが、一企業による聞き取り調査ではサンプル数に限りがありますし、事業のネタにされているようで身構える人もいます。「不便を解消したい」という純粋な気持ちで集まった市民団体だからこそ、できることがあったのです。

初めに行った視覚障害者300人に対する調査では、これまで明らかになっていなかったニーズが山のように可視化され、「パンドラの箱を開けるとは、こういうことか」と思ったほどでした。不便さの声は宝物です。分野別にチームを作り、電話・交通・買い物の種類が分かるプリペイドカード、触覚で識別できる牛乳紙パックの半円の切り欠きなど、不便さを解決する製品を次々と世の中に出していきました。続いて、聴覚障害者、妊産婦、高齢者、車椅子利用者への調査を実施。高齢者の調査では、障害者が使いやすい共用品づくりが高齢者にも役立つとわかりました。

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牛乳パックの切り欠き部分

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音声体重計。小さな文字で読みづらい計測結果も音声で伝えてくれるので、目の不自由な人にも便利です。後に当事者からの要望で、まわりに体重を聞かれないようイヤホンが付けられるように

 
 
共用品推進機構の誕生
設立から8年が経った頃には、展示会や調査など、外部から持ち込まれる相談が次第に大きくなっていきました。有志による市民団体では対応しきれないこともあります。話し合いの結果、E&Cプロジェクトを発展的に解散し、1999年に(財)共用品推進機構を設立しました(現在は公益財団法人)。
JIS(日本産業規格)策定への参画を打診されたことも、組織化のきっかけでした。規格は上から降って来るものだと思われがちですが、多様なステークホルダーが集まって検討すれば作ることができるのです。共用品がより広まるよう、様々な分野について規格をまとめました。そのうち、経済産業省からISO(国際標準化機構)への提案を相談されます。報知音や色のコントラストなどの基準をまとめたガイドがISOに採用され、2014年、ISO/IEC GUIDE71が13年ぶりに改訂されました。
 
常に課題を見つけたい
現在、共用品推進機構が行っているのは、共用品・共用サービスに関する調査研究や標準化の推進、人材育成や情報収集・提供などです。基本財産運用益、賛助会費、事業収益、補助金などを財源にしながら、安定した運営を心がけています。
大事にしているのは、常に課題を見つけ、解決していく姿勢です。2013年からは、従来の不便さ調査に加えて「良かったこと調査」をスタート。また、障害の有無、年齢、言語の違いにかかわりなく誰もが自分の意見を言える「みんなの会議」を実施しています。こういった調査や場で見つかる課題が、新たな共用品・共用サービスにつながっていきます。
失敗を通じて工夫するようになったのが、伝え方です。「高齢者にやさしいもの展」は集客に苦戦したのですが、「片手で使えるモノ展」にしたところ、ほぼ同じ展示内容でも大成功を収めました。それからは名前にも工夫をこらしています。
JSE100_062_kyoyo今後、取り組みたい課題~理解の促進や海外展開に向けて
まだ課題はたくさんあります。今後は、特に3つの課題に取り組みたいです。
1つ目は、難病の方が使える共用品づくりです。先日、表皮水疱症の患者団体の方から相談を受けました。少しの摩擦で皮膚に水疱や傷ができてしまうため、使える製品が限られています。患者数が少ないから製品化できないと思われるかもしれませんが、日本の指定難病は333種類、未指定の難病は2000~3000種類。困っている方はたくさんいらして、共通する不便さも存在しています。共用品は広まったとはいえ、まだ未着手の分野がたくさんあるのです。なお、表皮水疱症友の会 DebRA Japanでは、企業の協力を得て、共用品のおもちゃや服を入れた「ハッピーパッケージ」を、赤ちゃんや家族へ届け始めています。
2つ目は、共用サービスを広めることです。今年7月にJIS規格が「日本工業規格」から「日本産業規格」へと変わり、人的応対を含むサービス分野も対象になりました。店舗などでのアクセシビリティが改善されるようなマニュアルづくりに取り組んでいきたいです。

3つ目は、境界線をなくすこと。多くの人の心の中にある、難病や障害のある方を見てはいけないという気持ちが、境界線を作っています。共用品についても、一般製品との間にある境界線をいかになくしていくのか。将来的には共用品・共用サービスという言葉が要らない、みんなが使いやすい製品・サービスにあふれた世界にしていきたいと思っています。

(文責:エコネットワークス 曽我、渡辺、近藤)

今回の「社会事業家100人インタビュー」ご参加費合計のうち1,500円は、表皮水疱症友の会DebRA Japanへ寄付させていただきました。

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