お知らせ

  • HOME
  • お知らせ
  • 【レポート】第61回 社会事業家100人インタビュー:(特)豊島子どもWAKUWAKUネットワーク 理事長 栗林 知絵子氏

【レポート】第61回 社会事業家100人インタビュー:(特)豊島子どもWAKUWAKUネットワーク 理事長 栗林 知絵子氏

2019.11.07

社会事業家100人インタビュー第61回 先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ

2019年10月3日(木)19:00~21:00
於: ETIC.ソーシャルベンチャー・ハビタット
(特)豊島子どもWAKUWAKUネットワーク 
理事長 栗林 知絵子さん

CIMG1170

プロフィール:
特定非営利活動法人豊島子どもWAKUWAKUネットワーク理事長、民生委員児童委員。東京都豊島区在住。2004年より池袋本町プレーパークの運営に携わり地域活動を始める。自他共に認める「おせっかいおばさん」。地域の子どもを地域で見守り育てるために、プレーパーク、無料学習支援、子ども食堂などの活動を通じて、子どもと家庭を伴走支援している。
 
<今回のインタビューのポイント>(川北)
活動や事業は目的ではなく、手段に過ぎない。子ども食堂にも、開催することだけでなく、子どもと保護者のくらしをどう支えることができるかが問われている。栗林さんのお取り組みの経過から、プレーパークでの中学生との出会いを契機に、学習支援や子ども食堂、食糧提供やシェルターへと拡がり、地域とともに積み重ねられてきた、子どもと保護者を支えるコミュニティづくりを学んでいただきたい。
 
ある中学生のつぶやきから始まった“おせっかい”
豊島子どもWAKUWAKUネットワーク(以下WAKUWAKU)は、地域の子どもたちを地域で見守り育てるため、2012年に設立した団体です。きっかけは、2011年夏、同じ豊島区で暮らす、男子中学生T君と出会ったことでした。
私は2004年から豊島区が主催となって開設した「池袋本町プレーパーク」で、子どもたちの遊び場づくりに携わってきました。活動を続けていると、子どものさまざまな境遇が見えてきます。中には「昨日からご飯を食べていない」「プレーパークが休みだと行くところがない」と訴えてくる子も。どうしたら子どもたちが抱える問題を解決できるかと、考えるようになりました。
そんななか、受験を控えた中学3年生のT君が、「高校に行けないかも」と言うのです。学習習慣が身につかず成績が低迷するT君は、通塾が難しい家庭環境にありました。思わず私は彼に「行けるよ!」と声をかけ、その数日後から、我が家で彼のための無料塾を開始。その後ようやく会うことのできた彼のお母さんと相談し、私が保証人となって、東京都の受験生向け助成金に申請することになりました。ですが、進学できなかった場合に保証人に返済義務が課される20万円がありません。そこで助けてくれたのが、地域の親しい知人です。1人1000円のカンパを呼びかけ、口伝いにどんどん広がった協力の輪は、約100人に。11万円が集まりました。「このまちには、困っている子どもを助けてくれる人が、こんなにもたくさんいる」と知ったのです。
T君は無事、高校に合格。結局、集めた資金は手元に残ることになりました。そこで、説明責任を果たすために、彼の合格発表報告会を開催したところ、足を運んでくれた地域住民は80人以上。T君は「今まで生きてきた中で一番うれしい」と笑顔を見せてくれました。
「T君のようにもっと多くの子どもが、おとなになることにワクワクしてほしい!」 T君のサポートをきっかけに、そんな思いをもつ“おせっかい”たちがつながり、「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」は生まれたのです。
 
地域の子どもたちの「遊び」「学び」「暮らし」をサポート
WAKUWAKUは現在、「遊び」「学び」「暮らし」という主に3つの事業を通じて子どもたちをサポートしています。
「遊び」は、プレーパークの活動を継続・発展させ、現在は豊島区の委託を受けて実施しています。遊びの目的は、体を動かしたり、子どもたちの自主性を伸ばしたりすることですが、子どもや親との会話から一人一人が抱える課題やニーズが見えてくることもあります。
そして、「学び」。無料学習支援は小学生を対象に開始しました。より早い段階で“つまずき”をサポートできればその後の人生も大きく変わると考えたからです。現在の利用者数は3拠点合わせて毎週約80人。中高生や外国人の子も通っています。教えるのは地域の社会人や学生ボランティアで、家庭の状況に左右されることなく安心して学べる場をめざしています。
「暮らし」サポートの子ども食堂は、現在区内4カ所で運営し、年間のべ6,000人が利用しています。1日1食だけ、コンビニ弁当ばかりなど、勉強どころではない子もいますので、栄養バランスのよい食事を提供し、一緒にご飯を食べる場です。場所は地域の家庭や飲食店、公共施設などのキッチンを安価でお借りし、地域の支援者や企業が提供してくださる食材をボランティアの皆さんと一緒に調理します。拠点によりますが、子どもは無料、大人は300円です。2016年には区内13カ所の子ども食堂が参画する「としま子ども食堂ネットワーク」も生まれました。
このほか、乳幼児のいる家庭を訪問する「ホームスタート」や、宿泊機能をもつ拠点「WAKUWAKUホーム」の開設など、「暮らし」のサポートを通じて、親の孤立や虐待の防止につなげています。2018年からはひとり親世帯向けの「パントリーピックアップ」も開始。行政から対象世帯に案内し、フードバンクの食材や日用品を持ち帰ってもらうプロジェクトで、年間500人が利用しています。各家庭に食材を届けるのではなく、あえて取りに来てもらう立て付けにしたことで、孤立しがちな親子が地域の人やソーシャルワーカーなどの専門家とつながる場、親同士がつながる場にもなっています。
 
同士は地域住民。ネットワークの力で切れ目のない支援へ
こうした活動は、いずれも地域で困っている子どもや親たちの声に応えようととにかく突き進んできた結果、積み重なっていったものです。
たとえば、学習支援の教室で、勉強に限らず多様な経験ができるようにしているのは、ある母親の「年末年始は一番つらい」という言葉がきっかけでした。多くの子どもたちが家族で楽しく過ごす、クリスマスや年越し・お正月。そのお母さんは子どもに寂しい思いをさせていることに心を痛めていたのです。ならば、と開いたのがクリスマス会です。この小さな会は毎年恒例行事となり、今や地域の劇場が場所を提供し、大学生が企画するなど、地域のさまざまな立場の人が子どもたちを楽しませようと協力するイベントに発展しました。こうした季節ごとの行事やネパール子ども食堂、LGBTカフェ、キャンプなど、さまざまな形で子どもたちの声に応えてきました。
WAKUWAKUの活動は、各種助成金や篤志家からの寄付に支えられていますが、現場にはいつも地域の皆さんがいます。子どもの居場所や食材・物品をタイムリーに提供してくれる自治会や商店街の皆さん、教育指導や広報活動を買って出てくれる大学生、弁護士・税理士・カウンセラーといった専門職など、地域住民こそが同志だと思っています。
「あの子の悩み、知ったからには放っておけない」。根底には、そんなマインドがあります。事業計画や定量的な目標をもつことなく、ニーズありきで動き出してしまう私たちの活動は、運営面で課題があるかもしれません。ときに無力さを感じることだってあります。でも、できない理由を並べるより、自分たちにできることからやる。そして、できないときは地域の人や専門家の助けを借りる。お金がなくても多くの協力者とつながることで、地域全体が一つの家族のようになれている実感もあります。
 
「子育ては地域みんなで」の先にある社会
地域には「子育ては親の責任」と考える人が、まだまだたくさんいます。でも、WAKUWAKUは「地域みんなで子育て」という価値観を、社会の当たり前にしたいと思っています。
子どもたちへの支援は、実は地域の持続可能性を高めることにもつながると感じています。子ども食堂として利用している施設の一つに、地域の方が退職金でリフォームされた一軒家があります。高齢のお母さまが住みやすく、また、子ども食堂としても使いやすい設計にしてくださったのです。お母さまは数年前から介護が必要になり、「最期は家で」と切望していました。そのとき、在宅介護をサポートしたのがこども食堂を運営するメンバーで、最期はあたたかい雰囲気のなか、みんなで看取ることができました。高齢化が深刻化し、最期を孤独に迎える人が少なくないと言われていますが、子ども支援を名目に集まったネットワークは、高齢者をはじめ、孤立しがちな人を支えるつながりになれるかもしれません。
JSE100_061_WAKUWAKU_3
 
子どもたちは大人の背中を見ている
めざすのは、地域に子どもの未来を応援する大人がもっと増えること。メディアの影響もあって、子ども食堂は今や全国に広がっています。2016年から2019年には、議員連盟や政府からの後押しを受けて、「こども食堂全国ツアー」を実施しました。それでもまだ、子どもを支えるのは、特定の限られた大人にとどまっていると思います。
2019年から、「誰一人孤立させない豊島区」を実現するための円卓会議を定期開催しています。地域の民生委員、行政や企業の役職者、商店会や自治会の責任者などが集まってご飯を食べながら対等に話をすることで、支援の輪を広げています。今後はこの取り組みを地区ごとに広げ、さらにきめ細かい支援につなげたいです。
子どもたちは大人たちの姿をいつも見ています。そして、地域で“おせっかい”を受けながら育った子どもたちはいずれ大人になったとき、地域に“おせっかい”を返してくれる。現にこれまでたくさんの子どもたちが地域で成長し、さまざまな場面でWAKUWAKUの活動を支えてくれています。そうした個々のつながりと信頼関係こそが、街の将来を大きく変えていくのではないでしょうか。

(文責:エコネットワークス 新海、渡辺、近藤)

 
今回の「社会事業家100人インタビュー」ご参加費合計のうち4,500円は、WAKUWAKU入学応援給付金(※)へ寄付させていただきました。
※令和2年4月に入学・進学する子どもをもつ生活が苦しいご家庭を対象とする、返済不要の給付金です。60世帯に届けられるよう、200万円を目標に寄付を受け付けていらっしゃいます。
ご寄付はこちらから:https://toshimawakuwaku.com/nyugakuouen2019/

Contact us

ご相談・お問合せは
お気軽にお寄せください