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社会事業家100人インタビュー

【レポート】社会事業家100人インタビュー 認定特定非営利活動法人トゥギャザー 理事長 中條桂さん

2015.07.16

社会事業家100人インタビュー特別企画<1>
先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ

共同受注・生産で福祉作業所製品の販路をひろげる

インタビュー実施日:2015年5月31日(日)
於:(認特)トゥギャザー 会議室

認定特定非営利活動法人トゥギャザー 理事長
中條桂さん

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<プロフィール>
1935 年香川県出身。神戸大学卒業後、60年に積水ハウス株式会社入社。同社の創設メンバーとして、営業部門を率いる。84 年専務取締役就任。同社退社後、96 年積水ハウス梅田オペレーション株式会社代表取締役社長就任。管理する梅田スカイビルで開催したプレパラリンピックイベントを通じて、障碍者が福祉作業所で作った製品の販売が難しいことを知る。2001年9 月特定非営利活動法人トゥギャザーを設立し、理事長に就任。作業所の製品の販路開拓、共同受注・生産のネットワーク構築を実現することで、障碍者の自立支援活動を行っている。
 
みんなで作ってみんなで売るために

私は積水ハウス(株)に勤務した後、大阪駅北側にある梅田スカイビルを管理する会社の社長をしていました。1998年同ビルの広場で、大阪府の主催によるプレパラリンピック啓発行事を開催することになり、そこで初めて障碍者福祉の関係者と出会い、施設で作られた商品の販売先がなかなかないという悩みを知りました。障碍者も経済的な自立が求められており、工賃の向上が長年の課題になっていますが、当時、障碍のある方が授産施設や作業所で仕事をしても、収入は月1万円前後という状況でした。特に大阪府は小規模な作業所が多いため、平均値では全国最低水準です。企業人をリタイアしても体力も気力は充分にあったので、ぜひ、障碍のある方と社会をつなぐ架け橋の役割をしたいと思い、2001年トゥギャザーを立ち上げました。
住宅メーカーは、展示場や住宅説明会で来場者にノベルティをお渡しします。そのノベルティに施設の製品を使えないかと取り組みましたが、最初は簡単にはいきませんでした。理由のひとつめは、数量です。それぞれの福祉施設が小規模で、障碍のある方が作業することもあり、作られる製品の数は非常に限られています。一方、企業がノベルティとして使うためには、同じ製品が数百や数千個、時には万を超える数が必要です。ふたつめは、品質。企業が顧客へ渡すものですから、ある程度以上の品質が求められます。
取り扱ったものの中で評判がよかったのは、岡山県の蒜山高原(真庭市)にある施設が、ハーブを入浴剤やハーブティに加工した商品でした。
売れる商品から学びながら、取り扱う商品を模索していたところ、(公社)日本フィランソロピー協会の目にとまり、「障害者自立支援のためのモデル事業」へ参加しないかと、お誘いがかかりました。そこで、トゥギャザーがコーディネーターとなって複数の施設でグループをつくり、窓口を私たちが引き受けることで大量受注を可能にする仕組みづくりに挑戦することになりました。
03年、大阪府の7つの社会就労センター(SELP 注:Self-Help(自助自立)を意味する造語で、障碍のある方が働く施設)とネットワークを組み、作業工程が簡単で、各施設が既に自主製品を持っていた手すきのリサイクル用紙の活用に取り組みました。リサイクル用紙に付加価値をつけるために、卓上カレンダーに加工し、企業名を入れることで、企業の広告宣伝活動に使ってもらうのです。ところが、施設によってできる紙の厚みや質感が異なり、集めても商品になりません。そこで、私たちが施設に対して共通の基準を示して、品質の標準化を試みました。
施設と企業の間だけでなく、施設と施設の間にも「架け橋」が必要でした。施設同士だけではなかなかネットワークは作れませんが、トウギャザーが推進機関となり、企業向けの商品を共同受注・共同生産するスキームで、初年度に卓上カレンダー5000部を製作。10年以上続くロングセラー商品になり、現在は年間1万2000部ほど製作しています。
また、ちょうど環境問題に対応してスーパーなどがレジ袋の有料化など削減に取り組み始めた時代だったことから、エコバッグを障碍のある方に縫製してもらい、ノベルティにするアイデアが、積水ハウスとの話し合いの中から生まれました。これは全国の施設に声をかけて製作し、積水ハウスの住宅展示場で使われた他、大阪商工信用金庫の「エコ定期」の契約者へのノベルティに使われるなど、多くの企業に採用されるヒット商品になりました。10年以上に渡って、毎年1万から2万個を生産しています。
お菓子は、おいしくなければ売れない
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お菓子やパンを作っている施設は多いのですが、私たちが活動を始めた当時、ほとんどの施設では、障碍当事者の保護者やスタッフが見様見真似で指導している状態でした。食品は、衛生管理はもちろん、おいしいことが大切です。そのために、私たちは助成金を得て、技術指導のためにパティシエを派遣する事業を行いました。そうして作った商品を、2009年大阪の食博覧会に出品したところ、NHKでテレビ放映など多くのメディアに取り上げられました。
これは施設にとてもいい影響を与えました。というのも、普段、福祉施設が外から注目されることは少なく、非常にクローズドな世界です。発展性に乏しく、販路を拡大するという意識を持つことも難しい。そこに人の目が集まったことで自信が芽生えたのです。ぜひ、お菓子の品質向上を続けたいと思い、助成元へ応援を求めに行き、継続して助成していただけることになりました。それを資金に、今度は恐る恐る、製菓のプロを養成する辻学園調理・製菓専門学校に施設の障碍者に指導をして欲しいとお願いしたところ、喜んで手伝ってもらえることになりました。10年から毎年、施設の担当者や利用者が研修を受けており、お菓子が益々おいしくなりました。
お菓子の販路を開拓するためには、より多くの人の目に触れなければなりません。09年に堂島の三井住友海上火災保険(株)大阪支社のビルの一角をお借りして初の常設店舗「とっと」をオープン。14年に梅田スカイビルの地下街に「パティスリーとっと」としてリニューアルオープンし、全国の障害者福祉施設の商品を取り扱っています。
さらに、お菓子をギフト商品に仕立て、郵便局の「ふるさと小包」に採用していただき、近畿地方の約3000の郵便局の店頭でチラシが紹介されています。郵便局を窓口に、地域の方に地域の施設の商品を買っていただきつながりを深める「郵便協働」です。
また、大阪ガス(株)など地域の企業にSELP商品をノベルティに採用していただくほか、シャープ(株)、パナソニック(株)などいくつもの企業の社屋や工場で、販売会を開催させてもらっています。東日本大震災で被害を受けた施設を支援するために、東北の施設の製品を仕入れ、買っていただく活動も始めました。震災から4年たった今も継続しています。
自分たちで取り扱う商品をプロデュースするだけでなく、施設で作られる製品全体の品質向上のために研修の提供も、大きな事業の柱です。施設製品が市場に通用するためには、基礎からの底上げが必要です。これも助成金を得て、大阪と京都、兵庫県で、授産事業振興センターといった中間支援機関を巻き込み、専門家を講師に招くことができるようになりました。例えば、食品を作っている施設の職員に食品衛生法を学んでいただく等の研修を実施しています。
さらに、一般への啓発として、毎年、梅田スカイビルで行われている「障害者週間協賛行事」の開催に協力しており、実行委員会の事務局を務めています。
BusinessModel_together暮らしの場を支えるために、住環境のコーディネートも
障碍のある方の自立には、働く場所と同時に、暮らしの場も必要です。ノーマライゼーションをめざして地域に住まいを求めても、障碍のある方に適した快適な住まいは多くありません。
福祉法人が公営住宅や民間のアパートや家屋を借りて、障碍者のグループホームとして運営しているケースが多いのですが、構造上の問題で効率的な介助ができなかったり、スプリンクラー設置などの法規制に対応できる物件でなかったり、親の高齢化や当事者の重症化など状況が深刻化するにも関わらず、グループホームの数が全然足りていません。障害者支援制度が頻繁に変わるので、福祉法人が借金をして自主物件を建設することへの躊躇も大きいのが現状です。
住宅メーカーが福祉法人と協力すれば、障碍者にとって快適なグループホームを建築することができます。そこで、私の出身企業でもある積水ハウスが土地を所有しているオーナーに建物を建てていただき、運営する福祉法人と土地オーナーが賃貸借契約を結ぶ「建て貸し方式」でグループホームを増やすお手伝いをしています。オーダーメイドで使い勝手の良いグループホームが実現し、土地を有効利用したいオーナーにも喜ばれて評判を呼んでおり、今後も、積水ハウスと連携して住環境コーディネートの事業展開を行っていきたいと思います。
トゥギャザーの施設商品の売上は年間3000万円程度ですが、店頭の人件費や、箱詰め・配送、在庫管理などに販売経費が掛かります。それでも、施設にできるだけ還元したいと考えているため、管理職の一部は持ち出しです。トウギャザーのような中間支援組織を経営的に成り立たせることは容易ではありません。
近年は障害者自立支援法が制定されるなど障碍者の就労が強く促される傾向にあり、エコバックの縫製のような技術のある方は企業で就労できる機会が増えました。障碍者の企業での就労が進むことは大変良いことですが、しかし、どうしても企業での就職が叶わない障碍者も一定多数います。施設での作業に向いた商品の開発や高付加価値化が今後はますます必要となるでしょう。
だからこそ、私たち中間支援組織の役割は、より一層、重要になります。寄付や会員のみなさまからのご支援、グループホームの建設サポートで得る収入や助成金の活用など、バランスよい経営を肝に銘じ財政基盤の充実に努めたいと念じています。

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