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【レポート】特別企画  社会事業家100人インタビュー:特定非営利活動法人 循環生活研究所 理事長 たいら由以子氏

2018.01.18

社会事業家100人インタビュー 特別企画
先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ

 インタビュー実施日:2017年11月6日(月)
於:(特)循環生活研究所 事務所

ゲスト:(特)循環生活研究所 理事長 たいら由以子様

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 写真:循環生活研究所のみなさま
(福岡市東区香椎照葉地区のコミュニティガーデンにて)
(左から2番目が理事長のたいら由以子様、3番目がお母様で会長の波多野信子様)
 
プロフィール> 
福岡生まれ。大学では栄養学を専攻、証券会社で5年勤務。その後結婚・出産を経て現活動を開始。
1997年:東区循環生活研究所の活動を開始。
2004年:循環生活研究所として特定非営利活動法人格取得、コンポスト出張講座回数が年間300回を超える。
05年:内閣府事業としてダンボールコンポスト人材養成・支援事業を開始。
07年:生活環境に関わる3つのNPO(土・水・紙)でベッタ会発足・運営開始。
08年:小さな循環ファーム事業開始。里山団体とともにリーダー養成支援の特定非営利活動法人JCVN運営開始。
10年:国連ハビタットとネパールへノウハウ移転事業、これを契機にアジア拠点が増える。半農都会人講座開始。
11年:アジア3R推進市民ネットワークコンポスト担当としてアジアNGOと連携開始。
17年:生ごみ資源化100研究会立ち上げ。ローカルフードサイクリング立ち上げ。
 
<今回のインタビューのポイント>(川北)
リサイクルや自然・健康に配慮した製品の利用など、環境配慮型のライフスタイルに関連する取り組みは、1970年代以降、全国各地で多様に始まった。中には、これまで当インタビューでご紹介したように、大規模化し、くらしの基盤となったものもあるが、ほとんどは継続さえ危ぶまれる状況に追い込まれている。その違いを生む最大の理由は、活動を「広げられるか」ではなく、地域や社会、くらしや感覚の変化に応じて、自分たちの活動をどれだけ「進化できるか」否かにある。
自身のご家族のために始まった取り組みが、地域に多様に、しかも、深まりながら、広がった経過を、変化に応える進化のポイントとともに、学んでいただきたい。
 
父の食養生をきっかけに、「半径2キロでまわる、循環生活」を目指す
原点は父の病気でした。今から22年前、父は入院していた病院で医師から余命3カ月を言い渡されました。当時栄養士だった私は、病院でなく家で食養生をしたほうがいいと父に提案し、母とともに自宅で父の看病をすることにしたのです。しかし、食養生はまず調達の段階からつまずきました。父に無農薬の野菜を食べさせたい。でも当時は、一日探し回っても、すごく高いか古いものしか手に入らなかった。それから父が亡くなるまでの2年間は、野菜の調達に四苦八苦。駆けずり回って安全な食べ物を探し、調理することに一日の大半を費やしていました。たいへんな日々でしたが、余命3カ月と言われていた父の命は食養生で2年延びたのです。食べ物で人の存在そのものが変わる。でも安全な食べ物を使う暮らしをしようとするとお金がかかる。もっと身近に、自分の住む地域内で暮らしに必要なものが循環するような暮らしができないものか。そのためには何が必要なのか。水から考えて、最終的には「土」が必要だ、ということにいきつきました。
母は昔から庭で花を育てるのが好きで、自分で生ごみや雑草から堆肥をつくっていました。母はとことん突き詰めて研究するのが好きな性格で、何を入れるとどんな堆肥になるのか、独自に研究をしていました。もっといい堆肥づくりについて教えてもらおうと参加した福岡市の堆肥づくりの講座で、逆に母が講師を依頼されたのが今から約20年前、1998年のことです。それから母と私の2人で、もっといい堆肥づくりをしようと、感覚的な経験を数量的なデータで蓄積して研究を重ね、試行錯誤を繰り返していきました。そうやって、家庭で出る生ごみを堆肥にして土に戻すためのしくみ、コンポストの原型になる基材*を開発していきました。
* 基材:土や菌床など、堆肥化するために必要な材料
同時に、この堆肥づくりを特に若い人たちに広げていくにはどうしたらいいかを考えるようになりました。そんな時に出会ったのが「やかまし村青年団」のみなさん。福岡市立東市民センターの自主企画講座「私が描く未来の東区in青年セミナー」に集まったメンバーが中心になってつくられたグループで、東区の三苫が好きで、自然を楽しみながらまちづくりができないか、区内の自然を楽しむイベントや、地域の歴史を知るための勉強会等を開催している青年団でした。この人たちとなら何か面白いことができそうだと思って活動に参加して、一緒に畑もつくり、「三苫の旬を喰らふ会」というサークル活動も始めました。そうやってたくさん会って話す中で、私たちが住みたい街の将来像も一緒に描いていきました。そこから出たキーワードが、「半径2キロでまわる、循環生活」だったんです。
父の看病をしていた時期、私は子育てをしながらの食糧調達、三度の食事作りで、自分の住んでいるところから半径2キロの圏内に閉じ込められていました。半径2キロって、狭いようで広いし、広いようで狭い。あそこに新しいお店ができたな、とか、あそこの木は子どもにぶつかってあぶないな、とか、毎日通る中で色んな情報を集めていて、全てが自分事として感じられる。そういう暮らしの範囲の中で、近所の人と一緒に耕せる畑があったり、それぞれの庭でとれた野菜が並ぶ無人市があったり、地域でとれた作物を使った食堂があったりと、生活のなかから始まって、生活の中に活かしていく「循環」をつくっていきたい。そういう想いで、1997年に「東区循環生活研究所」(2004年に循環生活研究所として特定非営利活動法人格を取得)が立ち上がったのです。
 
ダンボールコンポストでマンション住まいにも堆肥づくりを広める
当時から、生ごみを使った堆肥づくりをしている人たちは全国にたくさんいました。でもその多くは、「ああいう作り方はだめだ」という主張のぶつかり合い。そんなすすめ方では拡がらないと思いました。私たちがしたいのは、あくまでも「Have Fun!」「楽しく暮らそうぜ!」っていうこと。そのためには堆肥づくりと家庭の暮らしがつながっていないといけない。一部の意識の高い人だけ、庭でガーデニングする人だけがするのではなくて、マンションのベランダでもできるような土づくり。そのためにはどうしたらいいのかを考えて、行き着いたのが今の主力製品である「ダンボールコンポスト」です。ダンボール箱の通気性のよさが堆肥づくりにとても適しているのです。それまでの堆肥づくりの研究と掛け合わせながら、福岡の風土に適した作り方を研究し、2000年から本格的にダンボールコンポストを広げる活動を開始。2002年にはダンボールと基材、冊子「堆肥づくりのススメ」などをまとめた、「これさえあれば誰でも堆肥づくりを始められる」というスターターセットの販売を開始しました。そしてこれが徐々に広がり、ダンボールという手軽さや、生ごみを減らしたい自治体の施策とも合致して、各地で堆肥づくりの講座を開催するようになりました。メディアにも取り上げてもらうようになって、数年後にはダンボールコンポストが爆発的な人気になりました。
 
全力でライバルを育てる
一方で、私たちのダンボールコンポストを真似した類似商品も出回るようになりました。私たちのコンポストの中身は、研究を重ねて匂いがほとんど出ない構成になっているにも関わらず、類似の商品では構成を変えているから、匂いが発生して、「臭いダンボールコンポスト」が世の中に出回ってしまったんです。その経験から、「広げるためには人を育てるしかない」ということに気づきました。そこで2005年からは「全力でライバルを育てる」ことを掲げて、人材養成のための事業を始めることにしました。それからの数年間は内閣府や経産省の支援をもらいながら、人材育成・支援活動のしくみを苦労しながら整えていきました。今では、ダンボールコンポストの使い方講座を開催する「アドバイザー」が全国に約200人います。そしてそのアドバイザーを育てるための「トレーナー」が12人。このアドバイザー、トレーナーを集めた集合研修を年に1回開催して、堆肥づくりのための最新情報や、「広げる」ための活動のあり方などについて共有しています。アドバイザーは全国に散らばっていて、それぞれの土地に適した堆肥づくりのために、「地産型の基材開発」にも力を入れています。その地域の気温や湿度に合った内容物を考えることはもちろん、その地域で普及するための阻害要因を洗い出し、評価項目を決めて一つ一つ点数化。各地のアドバイザーとともに、それぞれの地域でもっとも普及しやすい基材を開発しています。時間はかかりますが、そうやって一つ一つ、一緒につくっていく、一緒に広げていくことで、地道に人を育てています。
 
点から面へ:地域全体で広げる「小さな循環、いい暮らし」
各家庭でのコンポストによる堆肥づくりを通じて地域の循環システムをつくっていこう、とずっと活動していきたわけですが、20年たった今でも、日本の全世帯数からみれば、自分でコンポストを持ち堆肥をつくっている人はほんの一握り。この活動を始めた当初、ダンボールコンポストが広がればみんな生ごみを堆肥化する、と思っていた私は、「生ごみを普通にゴミとして捨てている人がまだこんなにいる!」という事実に驚愕しました。その大多数の「生ごみを普通にゴミとして捨てている人たち」を変えるためには、今までのアプローチでは届かない。点ではなく面で攻めていこう、という活動の一環としてまず取り組んだのが「ベッタ会」です。
Betta(ベッタ)とは、「地べた」と「地道」をキーワードに、環境にやさしい暮らしをみんなですすめるしくみづくりのこと。「ベッタ会」は、雨水を貯めて有効活用しよう、という活動をしている(特)南畑ダム貯水する会と、新聞という身近な紙を通じて紙をもっと大切にしよう、という活動をしている(特)新聞環境システム研究所、そして生ごみの堆肥化を進めている循環生活研究所の3組織が中心になって構成するネットワーク。手の届く範囲で、モノを捨てない、大切にする、循環を実感する暮らしを通じて、もっとBetterな暮らしを目指そう、ということを呼びかける活動です。水、紙、生ごみ。それぞれの団体としての活動だけじゃなく、「暮らしの中での循環」、「小さな循環、いい暮らし」という価値観を全体として広げていくこと、そしてたくさんの人を巻き込んで行動を変えていくためのしくみづくりです。「私たちは、手の届く範囲で、モノを捨てない大切にするBetta(ベッタ)活動をみんなで楽しく続けることを宣言します」というベッタ宣言に賛同してもらい、それぞれの参加者が自分のベッタ宣言をすることや、3つのテーマで一緒になってイベント出店したり講座を開催したりして、ベッタ活動を広げています。
 
「小さな循環ファーム」で循環を見せる・体験する
同時に、地域の畑を通じた活動を増やしていったのもこの頃です。もともと今の事務所があった場所は、組織立ち上げの時期に近所の人たちと一緒に菜園活動をしていたところ。各家庭の生ごみからできた堆肥を持ち寄って土をつくり、その土で自分たちで野菜を育て、それをみんなで食べる。私自身がその楽しさを知っているから、これをいろんなところでやって、見せていけばいいのだ、と。そこで 地域の中に畑をつくって、そこで生ごみや落ち葉を集めて堆肥をつくり、地域の人たちと一緒に野菜をつくる「小さな循環ファーム」の活動を2009年から開始しました。
「堆肥にするので生ごみや落ち葉を持ってきてください。持ってきてくれたら有機野菜と交換します」という呼びかけをしてみると、「これがほんとに堆肥になるの?そして野菜になるの??」と半信半疑で来てくれた人が、落ち葉や生ごみが堆肥になっていく過程を見て、畑づくりに参加することでぐんぐん変わっていきます。子どもたちの変化はなおさらで、堆肥ができるプロセスや微生物との関係性、土や野菜との関係性を実際に触れて実感することで、表情も、行動も、目に見えて変わっていく。そこから日々の暮らしの中の小さな循環に気づいていき、子どもに教えられて親の行動も変わっていきます。
この堆肥づくりが持つ教育の力をもっと活かそうと、幼稚園や学校と一緒に小さな循環ファームをつくる取り組みも徐々に増えてきました。2010年には福岡市の子どもみらい局と、いわゆる「非行少年」と呼ばれる、補導経験のある子どもたちと一緒に畑をつくるプログラムに取り組み、畑を通じて子どもたちが変わっていく様子を目の当たりにしました。さらに、地元の東区にある不登校生徒の自立を支援する立花高等学校との出会いから、高校の授業の一環として、高校の敷地内を開墾し生徒自身の手で一から畑を耕す、という取り組みを始めました。その活動は今も続いていて、嬉しいことにその活動の1期生が今、当所のスタッフになってくれています。
 
コンポストを地域全体で共有する「コミュニティコンポスト」へ
今はこの小さな循環ファームの活動を一歩進めて、「コミュニティコンポスト」の取り組みを福岡のニュータウンである香椎照葉地区で試験的に始めています。地域の中の共有の畑「コミュニティガーデン」を拠点にして、家庭のコンポストをベロタクシーで定期的に回収、コンポストを住民で共有するしくみです。マンションのベランダで自分でコンポストを管理して生ごみを堆肥化している人はまだまだ少数派。庭や畑などがない都会であればなおさらです。でも、マンションばかりの都会であっても、定期的に「回収する」システムをつくることで、地域全体でコンポストを広げよう、とこの活動を始めました。各家庭で作成途中の堆肥や、使いきれない堆肥を持ち寄ることで、堆肥の管理を一元化でき、そこでできた良質な堆肥は地元の農家にも提供しています。コンポストの回収に協力してくれる家庭には、5回に1回、コミュニティガーデンでとれた野菜をお渡ししているほか、その堆肥で育てられた地元農家の野菜は地域のベーカリーやレストランでも味わえます。家庭の生ごみや、地域の落ち葉が堆肥になって地元の畑で活用され、そこで採れた野菜を地域で食べる、「Local Food Cycling」のしくみ。生ごみを野菜にする新しい暮らし方の提案でもあります。コミュニティガーデンには地域の幼稚園や小学校と一緒に育てる畑や、ピザ釜、自由に使える調理場やイベントスペースなども整備して、住民が自由に作物を採り、昆虫や小動物に触れて遊べる場にしたいと思っています。将来的にはそこで鶏やヤギなどの家畜を飼う、ことも実現したいと思っています。
さらに、この「小さな循環ファーム」、「コミュニティコンポスト」の活動は、教育だけでなく地域の高齢者福祉にもつながっていきます。今や65歳以上の高齢化率が26.2%(2017年4月1日時点)の福岡県。中でも昔の「ニュータウン」である美和台地区の高齢者独居率は高く、日々のゴミ出しも大変、という話を聞きます。ならば、生ごみは堆肥化してゴミを減らそう!地域で共有の畑をつくって、小さなグリーンジョブをたくさんつくり、そこで地域の高齢者を雇用しよう!という計画を立てています。生ごみの回収で地域を回りながら生活の援助もする。コミュニティガーデンで野菜をつくって地元で売り、地域で循環する経済をつくる。畑を通じて高齢者の互助組合的なしくみができないか、これから挑戦していきたいと思っています。
生ごみの堆肥化を普及するための活動を地道に進めてきた当所ですが、堆肥づくりを通じた教育、コミュニティガーデンを通じた地域づくりと、その活動の幹は徐々に太くなってきました。週末だけ農家になる「半農都会人」を増やすこと、コミュニティコンポストをもっと効率的に低予算でつくれるようにして全国に広げること、菜園でのコミュニティビジネスをつくること、などなどやりたいことはまだたくさんあります。
生ごみのコンポストを起点にしながら、「資源の輪はつながっている」ことを実感して、住民自身による半径2キロ単位での持続可能な地域社会をつくっていくこと。今ようやく、思い描いていた、「自分の住む地域内で暮らしに必要なものが循環するような暮らし」が少しずつ回り始めたところです。
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