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【レポート】社会事業家100人インタビュー (特)やまがた育児サークルランド 代表  野口比呂美氏

2015.01.26

「先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ」
第35回社会事業家100人インタビュー

子育て期を「お母さんのキャリアのブランク」にしない

2014年11月25日(火)18時~20時
於:山形市男女共同参画センター 5 階

ゲスト:野口比呂美様 (特)やまがた育児サークルランド 代表

野口様③


<プロフィール>

特定非営利活動法人やまがた育児サークルランド 代表
特定非営利活動法人子育てひろば全国連絡協議会 副理事長
1998 年、それぞれ独立して活動していた育児サークルのネットワークを作るための団体を山形県内で設立。
山形市内の子育て支援施設「子育てランドあ~べ」の運営等を経て、1999 年法人化。
育児サークル支援や保育サービス、育児情報の提供、子育て中の人の人材育成、子育て分野の調査・研究、行政への提言等の活動を行っている。
 
<今回のインタビューのポイント>(川北)
子育て支援という考え方が一般的でなかった16年前(1998年)から、保育所の整備だけではなく、お母さん同士が助け合い、つながりあうための場所が必要、と「やまがた育児サークルランド」を発足させた。
今では多くの地域にみられるようになった子育て支援施設や子育てひろば。
しかしそれは、「こんなサービスが欲しい」と自ら提案し、自分たちでつくり、その声を政策づくりにも反映させてきた母や父たちがいたからこそできたこと。
当事者としての活動をどのように立ち上げ、公益活動に進化させてきたのか。子育てひろば全国連絡協議会副理事長として「子育てひろば」の普及、人材育成にも取り組む野口さんに学んで欲しい。
 
子育て中の母親が求めることを先輩お母さんがサポート
 
少子化や労働力減少を背景に、「女性の活躍を推進するには子育て支援が必要だ」という風潮が高まっています。経済成長に女性の力が必要なのは当然のことで、中央政府も子育て支援施策に力を入れてきています。
私たちが山形市で育児サークルを始めた1990年代は、少子化が社会問題として顕著になってきた頃でした。「1.57ショック」(90年に発表された89年の合計特殊出生率)があり、政府が初めてエンゼルプラン(子育て支援のための総合計画)を策定した時代です。私たちが活動している山形市は人口25万人ですが、年間出生数は2000人を超える程度で推移していて減少傾向であり、やはり少子化の波が押し寄せてきています。
育児サークルとは、昔であれば、身近な子育て経験者に話を聞いたり親戚や兄弟の世話をして学んでいたようなことを、自分たちで学びあおうと子育て中のお母さんが集まってつくる場です。私は、自分の子育て期に、育児サークル同士は意外とヨコのつながりがないということに気づきました。子育て真っ最中の育児サークルのメンバーにはネットワークを作るまでの余力はありません。そこで、子育てがひと段落した先輩お母さんが中心になり、98 年に「やまがた育児サークルランド」を発足しました。サークル運営のノウハウや、情報交換を兼ねた研修会を開くなど、子育てサークルを経験した先輩が、現役のお母さんを支援するネットワークになりました。子どもの一時預かりなどこれまで欲しくてもなかった活動を始めることで、サークル運営リーダー研修を託児付きでできるようにもなりました。
「子育てランドあ~べ」は、山形市の中心市街地に2002年オープンした子育て支援施設です。あ~べというのは、山形弁で「一緒に行こう」という呼びかけです。山形市からの支援には中心市街地の活性化という目的もあるので、「子どもを連れて街に出よう」という意味も込めました。
気軽に立ち寄れる「親子ひろば」では、工作をしたり、おはなし会や絵本の読み聞かせをしたり、安心して遊べるイベントを開催しています。その隣では、「夕暮れ泣きに困っている」、「離乳食はどうしよう」といった子育て中のある時期に特有の悩み事を相談できたり、本やリーフレットなどから情報が得られます。研修室では子育てに関する講座の他、お母さんを対象に仕事への復帰に向けたパソコン講座なども託児付で開催しています。託児ルームでは、公的な基準よりもさらに手厚い保育者を配置した保育サービスを提供しています。
 
子育て真っ最中のお母さんのニーズにもとづき、協働だからできる体制を
 
「子育てランドあ~べ」の構想の元になったのが、私たちが1999年におこなった「山形の育児サークルと子育て環境に関する調査」でした。山形市で開催されるまちづくり市民会議に参加しないかと声がかかり、それでは、国や県が行っている子育て支援が山形市のお母さんたちに合っているのかを調べてみようと思い立ちました。
雪国なので、冬は乳幼児を連れて外に出られません。なんとなく憂鬱な気分になる「ウインターブルー」は引っ越したり嫁いできて慣れていない人にとっては深刻です。「冬は外で子どもを遊ばせることができない」、「転勤で山形市に来たため、子育てについて話をきける人がいない」などの声を元に、山形市の子育て支援センターに対して政策提言したのです。しかし、当時、行政の子育て支援は始まったばかりだったため、取り上げてもらうことはできませんでした。
ところが、2000年に大型百貨店が撤退した後の空きビルに、山形市が公共サービスを提供する場として再オープンしたいと検討を始めたときに、私たちの提言が市の担当者の目にとまりました。「子どもランド」を作りたいという当初の市の案に対して、私たちは調査に基づいて、子育て真っ最中のお母さんたちが求めているのは悩み事を相談できたり、託児付きで学ぶことができる子育て支援なのだと訴えて、意見をすり合わせました。私たちがお母さんたちに呼びかけてできることと、市にやってもらいたいことを分けて、行政資金でやってもらいたいことを具体的に提案しました。
その結果、開館当時から現在まで、あ~べでは、私たちが提案した内容をもとに運営を行っています。例えば、02年当時はまだ子どもを預けることへの風当たりは大きかったのですが、短時間でも安心して子どもを預けたいという切実なニーズがありました。行政施設の一時預かりでは、預ける理由を申告しなければなりませんが、あ~べでは、お母さんの買い物やリフレッシュ目的でも気軽に利用できるようにしました。利用料金も、払える金額をアンケートで調べて、1時間500円に決めました。収支は赤字になりますが、市と交渉して実現しました。研修を積んだ有償ボランティアの活動により、質の高い保育を提供しています。また、先輩お母さんが数多く登録しているため、ニーズに柔軟に対応することができています。
あ~べの事業は、行政からの支援のない頃から「やまがた育児サークルランド」で独自に行っていた事業がほとんどですが、アンケートで要望の多かった親子ひろばのような広い親子の居場所は、行政との連携だからこそ設けることができました。また、専門家による講座をゆったりと遊ぶスペースの中で開催しているため、ふらりと立ち寄るお母さん達にも講座を聴いてもらえるようになりました。やまがた育児サークルランド
困りごとは何か、困っている人は誰か
 
あ~べを始めて気がついたのは、子育てサークルのお母さんたちは真面目でしっかりしたお母さんだ、ということです。でも現実には、自分たちでサークル活動をしたり子どもをつれて公民館に講座を聴きに自ら出かけて来るようなお母さんたちばかりではないのです。地域にはあ~べにも来れないお母さんもいるのだということを考えました。そこで、やまがた育児サークルランドでは、お母さんのおうちに出向いていく、先輩ママの家庭訪問ボランティア事業を始めました。
ボランティアで家庭を訪問したい人は所定の養成講座を修了し登録してもらいます。家庭訪問を受けたい人は、無料で1回2時間程度の訪問を原則4回程度まで受けることができます。一緒に家事をしたり、子連れでお出かけをしてみたり、最終回までには、あーべのような場所に親子で行けるようにサポートします。子どものいない人には想像がつかないかもしれませんが、初めての場所に子連れで参加することをすごく不安に思うお母さんも多いのです。ボランティアさんが一緒に行ってくれることで、親子が引きこもりにならずに済みます。最近では専門家や研究者の方から、児童虐待の予防に大きな役割を果たしていると評価されるようになりました。
アンケートから、多くのお母さんが親になる前に子どもと触れ合ったことがないこともわかりましたので、高校生のパパママ体験事業をしたり、山形大学から学生の保育体験研修や実習を受け入れています。そのつながりもあって、山形大学のキャンパスに事業所内保育所の運営を受託することにもなりました。
女性の自立支援は事業開始当初からの重要なテーマです。私たちの願いは、子育て期を女性の職業生活のブランクにして欲しくないということ。子育て中はそれまでしてきた仕事は犠牲になりがちなので、子育て中も学び、得られた経験を自分のキャリアにして欲しいのです。子どもを保育園に預けて仕事をフルタイムで継続しているお母さんもいますが、その場合は子育てで味わえる貴重な経験を犠牲にしながら働いているように見受けられます。お母さんたちがそんな思いをしなくても済むように、ワークライフバランスやお父さんの育児参画の推進にも取り組んでいます。
やまがた育児サークルランドの活動は、ボランティアでも子育て支援を続けたいという人に支えられてきました。そのため、活動を続ける人がステップアップできるよう多様な研修を整備し、より専門的に保育を仕事にしたい人には保育士資格受験のための集まりなども開いています。保育士として再就職したり、自分で団体を立ち上げたり、管理職として活躍する人たちも出てきました。このように子育て支援に関わる人材育成に取り組んできた経験を生かして、現在、国が推進している子育て支援員を養成しようという制度を活用していきたいと思っています。
また、従来からある子育ての専門家といえば、保育士などごく限られたものでした。「子育て支援」という新たな専門性を確立するためにも、(特)子育てひろば全国連絡協議会を、全国の実践者とともに設立しました。全国的な横のつながりの中で、情報交換したり、子育て支援スタッフの認定制度を開発したりしています。
振り返ると、自分たちが必要だと思ってやってきたことが、少子化対策と相乗効果を生み出して仲間を増やし、つながりを増やしながら社会に必要なインフラとして機能してきたのだなあと、感じています。

(取材日 2014年11月25日)

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