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【レポート】『社会事業家100人インタビュー』NPO法人 Homedoor理事長 川口加奈氏

2014.08.26

「先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ」 

第31回『社会事業家100人インタビュー』

~「自分ができること」から「問題の解決のために必要なこと」へ~

ゲスト:(特)Homedoor理事長 川口加奈さん

<プロフィール>

14歳でホームレス問題に出会い、「ホームレス襲撃」事件の根絶をめざし、炊出しや100人ワークショップなどの活動を開始。19歳でHomedoorを設立し、多くのホームレスの方々の特技である自転車修理を活かしたシェアサイクルシステムをつくり、現在大阪市内8拠点(相互乗り入れ拠点を含めると20拠点)でレンタサイクル事業を展開。元ホームレスの人や生活保護受給者累計56名に就労リハビリを提供するともに、自転車のシェアリングによる自転車問題の解決も目指している。ウーマン・オブ・ザ・イヤー2013若手リーダー部門選出。2014年大阪市立大学卒業。


<今回のインタビューのポイント>(川北)

「ホームレス状態そのものの解決のために必要なこと」は何かを考えた結果、ホームレスの「おっちゃん」たちとの関わりの中で、「自分ができること」の支援から「問題の解決のために必要なこと」へ舵を切った、その背景にはどんな気づきがあったのかを学んでいただきたい。


14歳で出会ったホームレス問題

大阪市西成区にある釜ヶ崎は日本で一番ホームレスの人が多い地域です。同級生の中にはわざわざその地域を避けて通学する友人もいて、私も母から「あんたも近寄ったらあかんよ」といわれていました。なぜ行ってはいけないのか、という好奇心から、釜ヶ崎で行われている炊き出しに参加したことがホームレス問題との関わりのきっかけです。

「ホームレス」なのは一体どういう人たちなのだろう、周りの大人が言うように「勉強しないとホームレスになる」のだろうか。ホームレスのおっちゃんに直接たずねてみると、「アホ言え。俺の家には勉強机はなかった。」という答えが返ってきました。当時、中学生2年生だった私は、親に勉強机を買ってもらって、当たり前のように勉強ができる環境を与えられて、勉強を頑張るか頑張らないかを自分で決めることができましたが、ホームレスのおっちゃんたちにはそもそも勉強ができる環境がなかった、貧困の連鎖が背景にある人が多いことを知りました。おっちゃんたちにはそれぞれホームレスにならざるを得なかった理由があります。厚生労働省の「ホームレスの実態に関する全国調査」(2002年)によると、ホームレス状態になる以前は半数が非正規雇用で働いていて、さらにその半数は日雇い労働者でした。日雇いとは、朝に雇用されてその日の夕方に解雇される労働(法律では30日未満の有期契約で雇用される)形態です。日本全体の被雇用者と比較すると、非正規雇用は約3割、日雇い労働者は1.7%なので、非正規雇用や日雇い労働に従事していた人がホームレス状態になりやすいということは、当時、中学生だった私でも理解できました。釜ヶ崎にホームレスの人が多いのは、日本の高度経済成長期に日雇い労働者が集められた地域だったからです。

非正規雇用や日雇いといった労働形態が無くては、日本の経済は成り立たないにも関わらず、その仕事に就いた人がホームレスになりやすいのだとしたら、自業自得では片づけられません。大阪市内では多い年で年間213人もの人々が路上で亡くなっています。凍死や餓死する可能性もある路上生活を誰がやりたくてやっているのでしょうか。

その頃、同年代の若者がホームレスの人への襲撃を繰り返すという事件がありました。その少年達が「社会の役に立たないホームレスを掃除してやっている」と供述しているという新聞記事をみて大変ショックでしたが、ホームレス問題の本当の原因を知る前の自分だったら同じことをしていたかもしれないとも考えました。知ったからには責任があるのではないか、この問題を人に伝えようと決めました。全校集会でホームレス問題についての作文を読んだり、校内で新聞を発行したり、炊き出しのための募金活動をしたり、少しずつ一緒に活動に参加してくれる友達も増えました。自分の学校だけではなく、他校の生徒を100人招きワークショップを2泊3日でするなど活動は広がっていき、16歳の時にはボランティア親善大使にも選ばれ、国際会議にも参加しました。

けれども、中学、高校での自分の活動を振り返ると、活動の前後で、路上で亡くなる人がいることに何の変化もありませんでした。路上から脱出したいと言う人にできることも何も無く、ホームレス状態を少し良くするだけの対処療法に留まっていたのだと気づき、そうでなくて、社会の構造を変えなければと、ホームレス問題で有名な大阪市立大学に進学しました。そこでやっと見つけた仲間2人と一緒に、「ホームレス状態を生み出さない日本」を目指して、2010年、19歳の時に任意団体Homedoor(ホームドア)を立ち上げました。

「自分ができること」から「問題の解決のために必要なこと」へ

ホームレスになりたくないと望んだら誰もがならなくて済む、ホームレス状態から抜け出したいと望んだら誰もが抜け出せる日本をつくろうと、仲間の一人に背中を押され、NEC社会企業塾に入塾しました。そこで、徹底して「ニーズの代弁者であれ」と指導されました。特に、当事者のニーズだけではなく、当事者の周りのニーズも考えるという視点を初めて与えられました。そこで、最初に実施したのが「モーニング喫茶」でした。朝食を提供して、ホームレスのおっちゃんたちと仲良くなってニーズを引き出そうという作戦でした。

全国のホームレスの人の数は、03年は25000人でしたが10年で7500人に減っています。03年から住所でも生活保護を受けることができるようになったためですが、それでもホームレスを続けている人には「国の世話になりたくない」「家族に連絡をとられたくない」等の理由があります。一旦、生活保護受給しても、コミュニティを失ったたり、税金で生活する負い目から再びホームレス状態に戻る人も3割います。そこで、Homedoorでは事業の三つの柱として「ホームレス状態への入口を封じる」「生活保護状態からの出口をつくる」「社会を啓発する」ことを決めました。

最初に、元ホームレス状態から生活保護を受給しているおっちゃんの「出口」をつくろうと考えました。社会から必要とされ、且つ、おっちゃんの得意なことをした方が、自己有用感が高まるのではと思い、おっちゃんたちの得意な自転車修理を活かして、シェアサイクルHUBchari(ハブチャリ)という事業を考案しました。シェアサイクルとは、元々、パリ市で放置自転車問題の解決のために始められた、レンタルサイクルを地域内にあるどの拠点に返却してもよいという仕組みです。HUBchariでは各拠点で自転車を管理・貸出する仕事を元ホームレスのおっちゃんたちが担います。ホームレス問題と放置自転車という大阪市の2大問題を一挙に解決でき、且つ、地域の人も巻き込めるため、この事業に取り組むことに決めました。

拠点を設けるために、自治体へ相談に行くとたらい回しにあい、企業に一坪程の「ノキサキ貢献」をお願いしても、当時、私は大学2年生だったので、最初はなかなか信用されませんでした。大阪市内中のホテルをまわり、ラブホテルにもお願いに行きましたが門前払いでした。1週間だけでいいから置いてくれないかと頼み込み、やっと4か所で実証実験を行ったところ、利用者からの評判が非常に良く、その声が実績となって、最初の拠点を設けることができ、おっちゃんの受け入れもできるようになりました。

10年間引きこもりだったり、たくさんの企業の面接を受けて全部落ちたり、いろんなおっちゃんたちがいますが、Homedoorでは段階的に就労時間を増やす就労リハビリ、面談や交流プログラムを組み合わせて就労支援を行っています。事業を進めていると、おっちゃんたちは自転車修理の他、拠点の看板を作ったり、ハンガーを活用して針金細工の自転車の模型を作ったり、様々な技術を持っていることもわかりました。これらを次の仕事に活かせるよう就労支援しています。

ホームレス状態からの「出口づくり」と啓発活動

実証実験をきっかけにメディアに取り上げられる機会も増え、ライバル店との差別化を目的にノキサキ貢献してくれる企業も増えました。一昨年は住吉区、去年は北区、今年は北区、西成区、平野区の3つの区と放置自転車対策の一環として協働しました。また、大阪市内での提携が進み、現在は20拠点でHUBchariを利用できます。おっちゃんたちへは、Homedoorからは時給500円程度、公的な制度を利用できる方だと数百円を積み増して、多い方で月8万円を支払えるようになっています。

HUBchariをきっかけに次の仕事へ踏み出してもらいたいのですが、なかなか次のステップが踏めない人には中間的な就労を提供してくださる企業の協力が必要で、連携企業も開拓しています。また、使い捨てされがちなビニール傘を修理してリサイクル販売を行うHUBgasa事業も始めました。これまでに75名がHomedoorで働き、そのうち55%の方が次の就労に進んでいます。

HUBchariが軌道に乗ってきたので、就労支援の他にやりたいと願っていた生活支援にも着手しています。まず、HUBchariのおっちゃんや生活保護受給者の方向けに料理や落語体験の教室(CHANGE)を始めました。行政からの委託事業を活用して、引きこもりだった方が教室に通うことで、人前でも話せるようになっています。Homedoor初期の取り組みでは生活保護受給者を対象にしましたが、ホームレス状態の人を受け入れる体制もできてきたので、夜回り活動「ホムパト」も開始しました。夜回りで出会って、関係性を作ることで、Homedoorに相談に来られたら、行政窓口や自立支援センターに紹介したり、その人のニーズに応じて他支援団体につなげたりも出来るようになりました。

就労するためには、就職先が決まるだけでなく、まとまったお金も必要になるので、Homedoor基金を設けて貸付を行ったり、給与の前払いをしたり、日払いしたりして、路上から脱出してもらうための工夫を行っています。携帯電話やスーツを貸し出しして就職活動に役立ててもらっています。

啓発活動としては、「釜Meets」といって、2ヶ月に1回、釜ヶ崎での炊き出しへの参加やワークショップをセットにして計6時間程の体験イベントを行っています。この「釜Meets」のプログラムから街歩きの部分のみを、企業や中・高等学校、大学からの依頼に応じ教材として提供しているのが「釜歩き」です。その他、出張での講演やワークショップ等の依頼に応じ、また、子ども達にホームレス問題を伝える一般社団法人「ホームレス問題の授業づくり全国ネット(通称HCネット)」の事務局を引き受けています。

以上、5つの就労・生活支援事業と4つの啓発事業活動で、年間1800万円程の事業規模です。収入の内訳は、事業収入が3分の1、行政からの委託が3分の1、寄付や助成金が3分の1の収入があります。啓発活動の「釜Meet」、「釜歩き」、講演活動でいただく謝金の他、夜回りや炊き出しは寄付がなければ実施できないため、寄付金も重要な収入源です。主な支出はおっちゃんたちへの謝金と事務局人件費です。事務局スタッフ3名とおっちゃん30名で運営しています。「ネットカフェ難民」や路上には出ていない女性のホームレス問題等、日本の定義では「ホームレス」と呼ばれない方々については未着手なので、今後の課題とし、また、「入口封じ」にも注力していきたいと考えています。

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