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【レポート】『社会事業家100人インタビュー』NPO法人ぐるーぷ藤 理事長 鷲尾公子氏

2014.07.10

「先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ」

第30回『社会事業家100人インタビュー』

2014年6月24日(火) 18時40分~20時40分 
於:横浜市市民活動支援センター セミナールーム1(協力:NPO法人市民セクターよこはま)

NPO法人ぐるーぷ藤 理事長 鷲尾公子さん

 

 

<プロフィール>

母親の介護を7年間経験し、最期まで自分らしく暮らせる街を創るにはどうすべきか専業主婦5人で話し合い、助け合い活動を始める。活動の中で、市民のさまざまなニーズを聞き取り、市民による市民のための福祉マンションを作ることを決意する。2007年、高齢者住宅や障がい者のグループホーム、幼児園、レストランなどがひとつの建物に入った複合型福祉マンション「ぐるーぷ藤一番館・藤が岡」を建設。総工費5億円の大半は、融資と地域住民による出資で調達した。現在、二番館建設に向けて準備中。

 

<今回のインタビューのポイント>(川北)

ただ制度にのっとって進める福祉だけではなく、制度をけん引するくらいの勢いをもつ福祉も必要。組織統治と事業運営のバランスのありかたを、ぐるーぷ藤のあゆみからぜひ学んでほしい。

 

手漕ぎボートからクイーン・エリザベス号へ

1992年、5人の主婦で活動を開始しましたが、当初から、ボランティアではなく事業体としての活動を意識しました。ワーカーズ・コレクティブから始め、99年には特定非営利活動法人格を取得。05年にはNPO法人ぐるーぷ藤に改組し、複合型福祉マンション建設に向けて本格的に動き出しました。07年に「ぐるーぷ藤一番館・藤が岡」(以下一番館)を開所し、13年12月には、認定NPO法人となりました。現在は、二番館建設に向けて、準備を進めているところです。

無謀にも手漕ぎボートで大海に出て、荒波にもまれ続けてきましたが、地域のニーズと向き合って、ひとつひとつ実現していくうちに「(クルーズ客船の)飛鳥になったね、三番館ができたらクイーン・エリザベス号になるね!」と、仲間と話しています。目標通り三番館まで達成した暁には、藤沢市内で一番の活動費が払える組織にしたいと考えています。

といっても、組織や事業規模の拡大が目的ではありません。私たちが一番大切にしているのは、介護保険事業ではできない、当初から行っている訪問介護事業の「本来事業」(注)です。売上は非常に小さいですが、利用者の方々のニーズにきめ細かく応えるためには、どうしても必要です。介護保険・障がい者支援事業は「出稼ぎ」と位置付け、事業全体の考え方のバランスをとっています。ただし、将来的には高齢者住宅の運営など、50%は自主事業で賄いたいと考えています。

(注)以下3つのサービスのこと。①藤たすけあいサービス(産前1か月・産後1年間のお手伝い)、②ふれあいサービス(高齢・疾患のある方、子育て中の方、困っている方への手助け/例:日常的な調理、掃除、洗濯、買物、介護保険でできない院内介助、外出が困難な方の出張理美容)、③ゆとりサービス(高齢・疾患のある方、子育て中の方への自分らしく暮らすお手伝い/例:ふれあいの範囲をこえた家事、大掃除、庭仕事、ペットの世話、お楽しみのお出かけ付き添い、出張パソコン教室)

 

責任と義務と権利が両立する働き方の実現に向けて

福祉に関わる人は「想い」が強い方が多いですが、それだけでは続きません。組織の安定的な存続が事業継続の前提となりますので、組織運営には心を砕き、スタッフが働きやすいよう、さまざまなしくみをつくってきました。現在、3つのプロジェクトを展開しています。

①評価プロジェクト

ワーカーズ・コレクティブでは平等・公平が重視されますが、スキルや経験を積んだスタッフからは不満がでます。好き嫌いや感覚ではない「公正な物差し」が必要だと考え、6年がかりで「DBU」(Dialogue for Brush-Up)という評価シートを開発しました。このシートに基づいて、毎年1月に自己評価、2月に主任クラスが一次評価を行い、3月に二次評価として管理者による面接という流れです。役員は、一次評価は無作為に選ばれた複数のスタッフによって行われ、二次評価は理事長面接です。評価結果と年齢・資格・経験・研修受講実績などをすべて数値化し、次年度の時給やボーナスが決まるしくみです。

②研修プロジェクト

今後の事業展開を見据え、個々人の経験やスキルにあわせた、体系的な研修システムの構築を図っています。13年度は内部研修を117回、外部研修を64回実施しました。管理者には、スタッフが研修に参加しやすいような環境づくり(業務シフトの調整)をする義務があります。海外研修も毎年2名参加し、30万円まで補助を出しています。

プロジェクトのメンバーは、今スタッフにどのようなスキルが必要か、いつもアンテナを張っています。そしてピンポイントで研修を組んでいきます。たとえば、右麻痺のある方の食事介助のスキルをアップしてほしいスタッフがいた場合、研修対象はその部門で働くスタッフ全員ですが、実はその方の食事介助を担当したスタッフが必ず受講できるよう調整します。自ら気づいてスキルアップしてもらいたいからです。

また、現在50名を超える介護福祉士がいますが、皆ぐるーぷ藤に入ってから、働きながら資格を取得しています。福祉関連有資格者には、内部研修だけでなく外部からも講師依頼が多く、スタッフは講師を務めることで、より自覚を高めていきます。

理念の共有の機会としては、年に5回、「理事長と語る会」を開催しています。5つのグループに分かれての会食です。しっかり顔を合わせて、「ぐるーぷ藤は、どこからきてどこにいくのか」を全スタッフに伝えています。

③役員報酬検討プロジェクト

ほぼ3年ごとに、部門管理者および主任などで構成されるプロジェクト・メンバーが、役員の報酬について討議し、答申を出します。役員の報酬がどのように決まるのか、一般のスタッフは知らない場合が多いのかと思いますが、私は、組織の透明性を確保し、民主的に運営を進めたいと考えています。また、役員がどのような責任や業務を担っているのか、メンバーが知る機会にもなっています。


人が人を連れてくる組織は、寄付も集まりやすい

「福祉分野は人材不足」と言われていますが、ぐるーぷ藤では、スタッフを一般募集したことがありません。スタッフが、一緒に働きたい人をどんどん連れてくるからです。研修システムが充実している組織は、離職率が低いというデータがあるそうですが、辞める人も非常に少ないです(先日、宮崎県からわざわざ見学にいらした施設管理者の方は、「離職率の低い組織」でインターネット検索した結果、ぐるーぷ藤がヒットしたから、とおっしゃっていました)。採用のコストがかからないだけでなく、スタッフがあらかじめ志望者にしっかり説明しているので、私が面接で一から説明する必要がなく、たいへん効率的です。

私が面接で伝えるのは、「あなたの子育て・介護で必要な場合は、休暇の権利を保障します」ということと、「そういった権利をだれもが行使できるように、ワークシェア・システムへの協力を果たす義務があります」という2点だけです。「有給休暇の全日消化キャンペーン」を実施した際、管理者は、調整しきれないのではないかととても心配しましたが、結果的には、スタッフ同士の調整でうまくいきましたし、メンバーの結束がより高まりました。働く人が幸せで、友だちに紹介したいような組織でなければ、いい福祉・いい組織はできません。

一番館をつくりたいと考えたときに 資産はゼロでした。そこで、05年12月にコミュニティ・ファンド「ふじファンド」を立ち上げました。匿名組合方式で資金をぐるーぷ藤に貸し付け、利息(年利1.5%)を出資者に配分するしくみです。驚くべきことに、一口50万円で募集したところ、2カ月で9,950万円の資金が集まりました。法律が変わったため、13年4月からは疑似私募債「ぐるーぷ藤・藤が岡債」に切り変えましたが、こちらも3日間で1億を超える資金が集まりました。いずれにしても、ファンドで1億円近いお金を集めたNPOはこれまでにないと言われ、市民からの信頼や期待の大きさを実感しました。これに加え、篤志家からいただいた1億2千万の寄付と銀行からの貸し付けで、07年10月、一番館の開所にこぎつけました。260坪の用地は、都市再生機構から譲渡を受けましたが、これは日本初の事例のようです。


地域とつながる施設で、高い質の食事を提供する

一番館は4階建で、1階は複合型サービス「しがらきの湯」、レストラン「OHANA」、幼児園、24時間対応の相談窓口(NPO版地域包括支援センターと呼んでいます)・事務室、2階が複合型サービス宿泊施設、看護ステーション、障がい者グループホーム、3・4階が高齢者住宅という構成です。

一番館には、利用者のニーズに応えたいと私たちが考えたことをすべて入れたので、実は採算性はあまりよくありません。レストランと厨房は赤字ですが、地域にひらかれた場として重要なのです。スタッフはほぼ福祉職で、車いすでのお客様の対応も手慣れていますし、近所の認知症のご家庭の見守りなどの役割も果たしています。また、福祉施設では、自前で食事をつくると非常に負荷がかかるので、外部の給食サービスに移行するところが多いのですが、ぐるーぷ藤の利用者が元気で長生きされるのは、このレストランの厨房から提供される食事の質が素晴らしいからだと思います。そして、徹底した口腔ケアを行うので肺炎になりませんし、1日2回、スリッパの裏まで消毒するので、感染症は一度も起きていません。

二番館設立にあたっては、一番館の運営を通してわかったことを最大限生かし、運営効率を上げる予定です。

 

リーダーの資質と次世代の育成

団体をつくろうと言った人(=私)がリーダーになるべきではないと思ったので、当初事務局長として裏方を担当してきました。介護保険法と特定非営利活動促進法がいっぺんに来た年に、覚悟を決めて3代目の理事長となり(4・5代目は別の人)、今は6代目を務めつつ、5年計画で次期を担う理事長候補を育成中です。組織のトップには、先見性や問題発見能力、発言力などが必要ですから、普段からスタッフにはそういった視点を持つよう働きかけています。新規事業を立ち上げるだけではなく、それを外に見せていく力もつけてほしいと考えています。

マスコミで紹介されたりすると、他の地域から「同じような施設を(お金も土地も提供するから)つくってほしい」という声をたくさんいただくのですが、今後も藤沢という地域にこだわり、一歩も出る気はありません。住んでいるからこそ地域のニーズがよくわかると思うからです。街づくりはその地域の人こそ中心になるべきなのです。

先の先を考えたら何もできませんので、ここまで向う見ずで走ってきましたが、トップとして責任を取る覚悟はいつもあります。利用者にきちんと説明責任を果たせる、ニーズに対応した活動であれば何をやってもいいと思っています。スタッフにとっては、リーダーが許してくれるかどうかではなく、どこまで責任を負ってくれるかのほうが重要なのです。

(文責:棟朝)

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