お知らせ

  • HOME
  • お知らせ
  • 【レポート】『社会事業家100人インタビュー』 株式会社大地を守る会 代表取締役社長 藤田和芳様氏

【レポート】『社会事業家100人インタビュー』 株式会社大地を守る会 代表取締役社長 藤田和芳様氏

2013.10.10

「先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ」

第19回『社会事業家100人インタビュー』

~運動と事業の両輪で有機農業の市場をつくる~

 

ゲスト:藤田和芳様 
(株)大地を守る会 代表取締役社長

 

<ゲストプロフィール>

1947年岩手県生まれ。出版社勤務を経て、1975年に有機農業普及のNGO「大地を守る会」設立に参画。

1977年には、大地を守る会の流通部門として、ソーシャルビジネス(社会的企業)のさきがけとなる「株式会社大地」(現・株式会社大地を守る会)設立。

有機農業運動をはじめ、食糧、環境、エネルギー、教育などの諸問題に対しても積極的な活動を展開している。韓国、タイ、インドネシア、中国、モンゴル、パレスチナ、ドイツ、スペインなどへも度々訪れ、アジアを中心に、世界各国の農民との連携を深めている。

1980年、「全国学校給食を考える会」設立に参画、事務局長に就任。

94年秋より、「国産のものを食べよう」「市民の手で、コメ、麦、大豆の自給を進めよう」と提案する「THAT’S(ザッツ)国産」運動を行なっている。

2003年から、夏至と冬至の年2回、電気を消してキャンドルを灯し、ゆっくりした時間を過ごす「100万人のキャンドルナイト」に取り組んでいる。

2013年からは、中国農村部の貧困問題に取り組むNGO「北京富平学校」と提携し、北京にて有機農産物の宅配事業を立ち上げている。

現在、株式会社大地を守る会代表取締役、早稲田大学非常勤講師、ソーシャルビジネスネットワーク代表理事、「100万人のキャンドルナイト」よびかけ人代表、アジア農民元気大学理事長、アジア民衆基金会長などを兼任。

 

<今回のインタビューのポイント>(インタビュアー IIHOE川北)

わずか十数年前まで、「運動」と「事業」は別のもの、と考えられていた。そのパラダイムに挑み、見事に打ち破ったのが、有機農業分野の先輩方だ。もはや今日、事業が社会を変える手法であることに疑問を投げかける人はいないが、逆に、事業しかしていない、自分たちのことしか視野に入っていない団体や会社も、増えてしまっている。社会事業家が社会を変えるために、なぜ、運動と事業は同じ視野で実践されなければならないのか。その世界的パイオニアから学んでほしい。

 

————————————

デモや勉強会じゃ社会は変わらない

 

大地を守る会は、1975年に有機農業運動を担うNGO「大地を守る市民の会」(1976年に名称を「大地を守る会」に変更)として設立され、その2年後1977年には、同会の流通部門として、「株式会社大地」(現・株式会社大地を守る会)を設立しました。NGOで脱原発の運動もするし、株式会社でビジネスもする。そうしてNGOと株式会社を車の両輪として、事業展開してきました。農薬に頼らない農業を広げるためには、誰がそれを買うか、という出口まで作らないといけません。運動体として、農薬を使わない農作物の大切さを説き、有機農業に転換した農家には全量買い取りを約束する。その一方で、会社で流通を作り、消費者に有機野菜を売っていく。これは有機農業を広げる運動であり、ビジネスでもある。その両方を常に持っていることが大事なのです。出口のない運動だけでは広がらないし、デモや勉強会だけでは社会を変えることはできません。

大地を守る会は、運動とビジネスをこれまでそれぞれ別の組織を持って実施してきましたが、2010年に、NGO大地を守る会と株式会社大地を守る会を合併し、社会的企業としての株式会社の中で理念を掲げ、運動とビジネスを両方やるという挑戦を始めました。

そのために、株式会社大地を守る会の定款を変更し、日本国憲法のように「前文」を作りました。前文では、大地を守る会は「社会的企業である」と宣言し、その果たすべき使命は、「日本の第一次産業を守り育てること」「人々の生命と健康を守ること」「持続可能な社会を創造すること」であるとしました。私たちはこの定款前文に基づいた農作物を扱っていきます。

将来、私たちは社会的企業であることを掲げて株式公開する可能性もあります。その時には、営利追求のための企業ではなく、社会的企業としての株式会社大地を守る会の役割を広く社会に伝え、それに共感する人に選んでもらえる企業にしていきたいのです。

 

青空市場から共同購入、そして、宅配へのモデル転換

 

農薬に頼らない野菜を作り売る、ということは、流通に都合のいいように農作物を作り替える現在の農業のあり方に異を唱えること。消費者から見れば、形がいびつで扱いにくいものがあるかもしれません。しかし誰がどんな農法でつくったのか、栽培した畑の情報や野菜の履歴を示し、消費者に有機野菜のよさを理解していただかなければ、提携する有機栽培農家に全量買い取りの約束をし続けられません。

創業当時、江東区の団地の中でゴザをひいて野菜を売っていました。最初は誰も相手にしてくれません。「どこで採れた、農薬を使わない安全なおいしい野菜ですよ」と説明し続けて、少しずつ理解してくれる消費者を増やし、青空市の場所も増やしていきました。

 

消費者が増えると、お客さんに「グループを作ってほしい」とお願いし、そのグループに野菜を売る、という共同購入の制度を始めました。私たちはトラックでじゃがいも10キロとかほうれん草20把とか、農家が出荷したダンボールのまま各グループを回って、グループ全体の注文の量を置いていく。そしてそのグループの消費者が集まって、自分たちで仕分けをする。私たちはこれを「ステーション」と呼んでいました。そのステーションでは、生産者の苦労話や、子育てや政治の話などが話されて、消費者が集うオアシスのようになりました。ステーションの運営はそれぞれのグループに任されていましたから、1つ1つのステーションが自立してたくさんのオアシスができることが、単に野菜を売るだけでない、我々の運動でもありました。

しかし、女性の社会進出が広がるにつれて、共同購入に限界を感じるようになりました。共同購入のしくみでは、昼間に家にいる専業主婦にしか売ることができない、ということに気づいたのです。その頃は、会員数が2,000人程度になっていたものの、昼間に家にいない等の理由で新たなステーションの設立や参画をためらう消費者が多く、なかなか会員数が増えなくなっていました。

そこで、一軒一軒に野菜を届ける、宅配の事業を始めようと思い立ちました。しかし、これまでの共同購入のステーションに大きな意義を感じてくださっている消費者もいます。その方たちの中には「消費者相互のコミュニケーションが希薄になり、ステーションそのものがバラバラになってしまうのではないか」という反発もありました。

結果として、昼間は共同購入のグループに野菜を届け、夕方以降は個宅に宅配をする、ということを始めました。そうすれば、同じトラック・配送員が共同購入も宅配も担うことができます。そして情報誌の充実や生産者との交流の場の設定など、宅配の消費者にも、生産者との接点を多く設けることにしました。

はじめは配送センターのある調布で、センターの半径5キロ圏内に絞って宅配を始めました。共働きの家庭やお年寄り、あるいは障碍をお持ちの方など、ご希望なら冷蔵庫まで野菜をお持ちします、その代わり配送は17時から24時にかかってしまうことがあります、と書いたチラシを配りました。1985年のことです。その結果、爆発的に会員数は増加しました。

しかし、会員数を増やすということと、ビジネスの形を作っていくこととは違います。例えば宅配のための仕分けの作業。会員数が3,000人を超えた頃には、人海戦術の仕分けでは追い付かなくなっていました。消費者ごとの注文に合わせて、「じゃがいも1キロ、小松菜2把」、など読み上げて小分けの箱詰めをしていたのですが、会員数が増え、注文の箱の数が増えるとその仕分けの声が聞こえなくなり、ミスが発生します。そこで仕分けの管理をコンピューター化して、宅配のシステムを独自に作っていきました。それにより会員数増に対応できるしくみが出来上がり、宅配エリアを半径5キロから半径10キロに、さらにその外にも、そして日中も、というように宅配の件数が拡大していきました。今では、大地を守る会の生産者は2,500人、消費者の会員は約96,000世帯、ウェブ上の買い物ユーザーが約81,000人、計約17万7千人(2013年6月末時点)の消費者に大地を守る会の野菜をお届けしています。

今振り返れば、青空市だけをやっていたら、大地を守る会を大きくすることはできなかったでしょうし、共同購入というビジネスモデルの上に漫然としていたら、潰れていたでしょう。それぞれの転換期に悩み、自分たちのシステムを作っていった、ということが、その後の大地を守る会の基礎になっていきました。

 

 

 

百の説法より畑へ

 

次に大切なのは、お客さんにどうやって信頼してもらうか、ということ。もちろん、有機栽培のおいしい野菜、という商品の力があることが大前提ですが、もっと大事なのは、消費者をどう運動の部分に巻き込むか、ということです。簡単に言い換えれば、消費者と生産者を結びつけること。農薬の恐ろしさや、有機栽培の意義をどんなにたくさん言葉で重ねるより、直接畑に行って見て、生産者の話を聞いてもらうことで、伝わるものがあります。

だから大地を守る会では、毎週のように生産者の元を訪れる交流会の機会を作り、消費者と生産者をつないでいます。これは一見、大きなコストのように思えますが、生産者と直接つながることで、消費者が他の業者に「浮気」をしなくなります。「あの農家は私の友達だ」と感じてもらえれば、継続的に商品を買ってもらえるし、客単価も上がります。

さらに、大地を守る会が脱原発や遺伝子組み換え食品への反対、TPPへの反対などの市民運動を展開していることで、そういう取り組みをしている団体だという関心を高めることにもつながります。こうした運動の部分に消費者を巻き込むこと、例えば集会などに誘い、関心を高めてもらうこと、共感してもらうことでさらに熱心なファンをつくっていくのです。運動に熱心になればなるほど、その人は大地を守る会以外には「浮気」をしなくなりますから。そうやって、運動をやりながらビジネスが成り立っているのです。

国内だけでなく、日本で採れないものを海外から輸入する場合も、出来る限り顔の見える関係でフェアトレードをするように努め、なぜその地域から、その生産者から購入するのか、という理由を消費者に伝えています。コーヒーは、独立の過程で大きな犠牲が出た東ティモールで栽培された豆を購入し、オリーブオイルはイスラエルとの関係で爆撃の絶えないパレスチナの農家から、そしてHIVに感染している子どもが非常に多い南アフリカからは有機ルイボスティーを輸入し、その売上げの1%を、それぞれの地域の学校に寄付しています。

例えば家庭でサラダを食べる時、福島県の農家の佐藤さんが作ったトマトと、埼玉県の吉澤さんがつくったレタスに、パレスチナのオリーブオイルをかけながら、それぞれの生産地のことを親子で話してもらえたらどんなに素晴らしいことか。そういう活動を理解してくれる人はヘビーユーザーとなり、客単価がどんどん上がっていく。そうやって運動と事業が密接につながっていくのです。

 

運動が事業の足腰を強くする

 

例えば小さな町の小さな豆腐屋さんを想像してみてください。地域に根付いた手作りの豆腐屋さんであれば、地域の農家からとれた大豆、しかもできれば農薬で地域環境を汚染していない無農薬の大豆を使って豆腐を作りたいと思うでしょう。しかしそういう材料を使って作った豆腐は、近所のスーパーの豆腐より高くなります。商売を続けるためには、毎日200人に豆腐を買ってもらわなければならないとすると、そのお客様が10日に1回来てもらうとして、最低でも2,000人位の友達やお客さんを作らなければいけない。でも2,000人に思いを届けるためには、豆腐だけでは伝わらない。豆腐以外のメッセージを伝えないといけない。そういう時に、「あの豆腐屋は単なる豆腐屋ではなく、原発の話もできるらしいぞ」とか、「パレスチナの問題に取り組んでいて、国際問題に詳しいらしい」など、話題になるためのなんらかの物語がなければいけない。豆腐だけでは物語を作ることは難しいんです。

だから運動の力で人を巻き込み、社会に働きかけることが必要です。例えその運動と本業が直接つながらなくても、面白がってもらえるだけでもいい。大地を守る会では夏至の日に電気を消してスローな夜を過ごそう、という「100万人のキャンドルナイト」という運動をしていますが、大地を守る会の事業との直接のつながりはありません。「100万人のキャンドルナイト」をやっているのが大地を守る会だということもあまり知られていません。でも、それでいいんです。間接的に人をよせつけるということ、そしてその組織の奥の深さを見せること、それが事業の足腰を強くすることだと思っています。直接の顧客は広がらなくても、共通の価値観の根っこのところを広げていく。それが結果的に自社の顧客に結びつくと思っています。

 

信頼というビジネスを中国へ。そして世界の農業を変える

 

今年7月、北京で現地NGOと合弁で宅配事業を立ち上げました。日本の野菜を売るのではなく、これまで大地を守る会が培ってきたノウハウを伝え、中国の農家に有機野菜をつくってもらい、中国の消費者の玄関先にまで宅配する、というビジネスを開始したのです。

3年程前から準備をはじめ、中国の農家の人たちに日本の有機栽培農家を見てもらい、ノウハウを伝えるなどの取り組みをしてきました。現在、500人程の消費者の会員がいますが、産地が水浸しになったり、野菜が計画通り出荷されなかったり、トラックから野菜が全部盗まれる、といった様々なトラブルが起こっています。

しかし今の中国は、日本で大地を守る会を始めた時と同じ状況にあります。環境問題があり、農薬の使用が広がり、公害も広がって食べ物の安全性が脅かされている。廃油を食用として転売する業者もいます。安全性を求める消費者の意識は高いのに、それが果たされていない。そのジレンマの中に「信頼」を持ちこんだら大きなビジネスになる。もし、中国の農業が有機農業に転換し、環境問題に配慮した無農薬の農作物が広がれば、世界の農業が変わるかもしれない。そして生産者と消費者、人間と人間が信頼という形で結びつくことができたら、それは国境を越えた世界の平和につながるかもしれない。

中国の人たちは、環境や食の安全に関する情報に飢えています。おそらくそれは、ほかのアジアの国にとっても同じでしょう。これから中国での5年間の事業計画を成功させたら、アジアに大地を守る会を広げていきたい。そして同時にビジネスとしても成功させたい。運動とビジネスを同時に進め、消費者と生産者をつなげることで、世界の農業はきっと変わると私は信じています。

 

Contact us

ご相談・お問合せは
お気軽にお寄せください