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【レポート】『社会事業家100人インタビュー』有限会社 ビッグイシュー日本 代表/特定非営利活動法人ビッグイシュー基金 理事長 佐野章二氏

2013.04.04

「先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ」

第13回『社会事業家100人インタビュー』 

~「救済」ではなく「仕事」を~ ホームレスの人々の自立をサポートするしくみ

2013年3月6日(水)19時~21時 於:(特)ETIC.ソーシャルベンチャー・ハビタット

 

ゲスト:佐野章二さん
有限会社ビッグイシュー日本代表
特定非営利活動法人ビッグイシュー基金理事長 

 

 略歴
1941年大阪市生まれ。地域計画プランナーとして活動する傍ら、NPO法制定に関する基礎調査(「市民公益活動の基盤整備に関する調査研究」)をはじめ、仙台、神戸、広島等のNPO活動支援センターの立ち上げや、阪神淡路大震災時には三つの応援組織立ち上げを支援。2001年に「シチズンワークス」を設立。
市民が興味のあるテーマで自由な議論を行う「市民研究講」のなかの「ホームレス問題研究講」から「ビッグイシュー日本版」発行のアイディアが生まれ、2003年9月ホームレス支援雑誌『ビッグイシュー日本版』を創刊。03年5月より現職。07年9月、特定非営利活動法人「ビッグイシュー基金」を設立。
主な著書 『ボランティアをはじめるまえに』―市民公益活動 地方自治ジャーナルブックレット 公人の友社 (1994)『ビッグイシューの挑戦』 講談社(2010)

 

人はなぜホームレスになるのか

ビッグイシューは、ホームレスの方々をビジネスパートナーとして、雑誌「ビッグイシュー」を販売してもらい、その売上の半分以上(1冊の販売価格300円中の160円)が販売者の収入になるしくみです。

1991年にロンドンで生まれ、2003年9月に日本でも創刊。2012年8月末には日本の販売登録者数は延べ1369人、販売中の人が151人で卒業者が156人になりました。

この数字を見ると、登録者の残りの約1000人はどうしたのか、と思うでしょう。その人たちは販売に向かないか、働けないで生活保護を受給した人などです。ビッグシューでは最初の10冊は無料で渡し、その売上げの3000円を元手にして、仕入れをしてもらうしくみにしています。1000人のなかには、最初の10冊を受け取った後、消えてしまった人たちも多い。それは、人はなぜホームレスになるのか、という問題にもつながっています。

日本ではホームレスになる理由として失業が多い。失業し、家賃が払えなくなって家を失う。でもその時に、頼れる人、相談できるところがあればホームレスにはならない。一人ぼっちになる、社会的孤立、という3つ目の原因があってはじめて、人はホームレスになる。頼れる人や場所を持たないということ、ホープレスであるということ、それがホームレスの問題の本質です。そういう彼・彼女らにとって、我々は敷居の低い存在でなければなりません。すぐできて、すぐやめられる。そういうものでないと、アクセスしてもらえない。ビッグイシューとホームレスの人との契約は「8つの行動規範」という、販売の際の基本ルールだけです。それを守れなければやめてもらうし、それは約束してもらいます。でもそれ以外は、路上に何時間立って売るかなどは自由です。売り上げたお金を何に使うかも自由。社会的に孤立している中で、お酒やギャンブルなどに依存している人も多いでしょう。そういう仕事として、最初に登録し、販売を続け、卒業した人たちの数がこれだけ、ということです。

 

当事者を問題解決の担い手にする

ビッグイシューを日本で創刊しようとしたとき、「日本ではビッグイシューは100%失敗する」と言われました。日本では、若者の活字離れが起こっていて雑誌が売れない、そもそも雑誌の路上販売文化がない、優れたフリーペーパーが多いからわざわざお金を出さない、ましてホームレスからは買わない、という四重苦があるからです。

ホームレスの支援というのは、難しいことの組み合わせですね。でも、イギリスでホームレスの人が誇らしげにビッグシューを掲げて売っているのを見て、「この風景を日本でも実現させたい」と思いました。日本でも絶対にできるはずだと。「我々はホームレスを救済するんじゃない、ビジネスパートナーとして仕事をするんだ」と考えました。

仕事は、人々を対等にする有力なツールです。仕事を通じて人はつながりを得ることができるし、自立することができる。モノやお金ではなく、機会(チャンス)を提供することが、何よりも彼・彼女たちの支援になると考えました。そして、その仕事を市民が作り出すことに意味がある。ホームレス問題解決への市民の参加機会をつくる、ということです。市民の手で雑誌を作って、それをホームレスの人たちから市民が買う。そういうサイクルの中で、市民が当事者になる社会、当事者が問題解決の担い手になる社会をつくりたかった。

そのためには、魅力ある雑誌、たくさんの人に買ってもらえる雑誌でなければなりません。活字離れしている若者にも読ませることのできる雑誌、市民が主役になっていて、しがらみがないからこそ取り上げられること。私たちは社会のエッジにある問題、隅っこにあって、なかなかメジャーなメディアでは取り上げられない課題を取り上げようと思いました。そこに世の中の普遍性があると。その問題を現場で生々しく取り上げて誌面に載せ、ホームレスの人が市民に販売する。しかも若者受けするかっこいいデザインで。活字離れしていると言われる若者が思わず読んでしまうようなデザインを、1ページ1ページ練って作っています。その結果、今では30代から40代の女性を中心に、毎号約3万部が売れています。うち約7割の読者がリピーターです。

こうした雑誌を作るのには、当然資金が必要です。雑誌の創刊には、通常5000万~6000万円必要だと言われていますが、私たちが用意できたのは2000万円。その内訳は、当時の国民生活金融公庫の開業融資と大阪府人権金融公社からの融資で計1200万円。私ともう一人の創業メンバーで出した出資金が300万円。加えて大阪府のコミュニティビジネスプランコンペで100万円を支援してもらい、残りの400万円は、一口5万円の「市民パトロン」を募集してみました。結果、80人もの市民パトロンが集まりました。こういう事業を面白いと思ってお金を出してくれる人が80人いた、ということです。当時、行政のお金はあまりあてにはしていませんでした。行政組織の中に流れている時間の感覚と、立ち上げ期の我々の時間の感覚はまるで違います。時間だって貴重な資源ですから、あえて行政には頼らず、自分たちでなんとかする方法を考え、結果として80人もの市民パトロンの方々に出会うことができて、とてもよかったと思っています。

 

会社とNPOの両輪で「人をホームレスにしない社会」をつくる

とはいえ、懐事情はなかなか厳しい。03年9月に発行した創刊号は約5万部売れ、04年3月に発行した第5号は8万部売れましたが、それ以降は減少が続いています。04年9月からは、月刊から月2回発行にしました。年間計24号、約70万部を売っていますが、赤字の累積がたまり、07年にはそれまで1冊200円だった販売価格を300円に値上げしました。

その結果、08年~11年は単年度黒字とすることができましたが、東日本大震災後に売上が約17%減りました。加えて、東京での販売者が徐々に減ってきています。ビッグイシューの販売は立ち仕事でしんどいですから、生活保護を受けたほうが楽だ、という人もたくさんいます。また、ビッグイシューでは生活保護を受けている人は、販売者にしないのがルールです。

こうした苦しい懐事情の中で、どうやったらもっと市民に応援してもらえるだろうかと考えて、雑誌を発行している有限会社ビッグイシューとは別に、07年9月にビッグイシュー基金を設立し、2012年には認定特定非営利活動法人になりました。基金では市民応援会員や企業・団体向けの社会再生サポーター制度、そして税制優遇の受けられる寄付を募るしくみをつくって、若者をホームレスにしないための市民ネットワークづくりや政策提言、路上脱出ガイドの作成と配布、自立応援のためのスポーツや文化のクラブ活動なども行っています。

近年ホームレスの若年化が起こっていることに伴い、その原因を探ろうと「社会的困難を抱えた若者応援ネットワーク」を複数の組織と一緒につくり、「若者ホームレス白書若者ホームレス白書②」も発行しました。若者ホームレスの問題は単にホームレスの問題が若年化しただけではなく、ひきこもりやニートが象徴する教育や家庭環境、障害の問題、児童養護の問題などさまざまな社会問題と地続きであり、日本の未来に関わる問題です。その原因や本質的な問題を調査し、結果を発信して提言していくことがとても重要だと思っています。

雑誌「ビッグイシュー」を有限会社で販売して事業をまわしながら同時並行で、人をホームレスにしない社会づくりをすすめようと、今は会社とNPOの両輪で活動をしています。

2011年から12年にかけては、東日本大震災で被災した地域のホームレスを支えようと、現地へのボランティアの派遣、スタッフの長期派遣や、現地の市民団体と共同してミニコミ「被災地の路上から」を発行して被災地外への発信も行いました。

ホームレス問題解決のためには、市民が当事者になって参加すること、応援することが絶対に必要です。雑誌を買うという行為も、寄付をするという行為も、市民が社会参加するためのツールなんです。雑誌ビッグイシューや路上脱出ガイドなどを接点にして、社会の一員としてホームレス問題解決のために参加してほしい。無視するのではなく、気にして、声をかけてほしい。一人ぼっちになりホープレス状態になっている彼・彼女たちが、つながりを回復してホープを持つということ、それを支援するのがビッグイシューの役割だと私は思っています。

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