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【レポート】『社会事業家100人インタビュー』株式会社PEER 代表取締役社長 佐藤真琴氏

2012.12.20

「先輩社会事業家のビジネスモデルを学ぶ」

第9回『社会事業家100人インタビュー』

 

ゲスト:佐藤真琴さん
株式会社
PEER 代表取締役社長
一般社団法人ピア
理事長

 プロフィール

浜松市生まれ。米国留学、広告代理店勤務を経て、25歳で看護学校入学。
在学中の白血病患者さんとの出会いから、2003年、低価格で良質なウイッグを生産するため起業。
06年には、カットだけでなくどう治療期間を過ごすのかを一緒に考える
専門美容室「ヘアサプライ ピア」開業。
現実解決策を通じて、がん患者など治療を続ける当事者・まわり・支える医療スタッフに貢献し、
がんになっても安心して暮らせる地域支援をソーシャルビジネスとして行う。さらに地域課題に踏み込むために、09年に(般社)ピア設立。平成20年度静岡県男女共同参画社会づくり活動に関する知事褒賞(チャレンジの部)、
日経ウーマンオブザイヤー09キャリアクリエイト部門第5位受賞。経産省ソーシャルビジネス55選に選出。東海若手起業塾1期生。

 

<今回のインタビューのポイント>(川北)

最近、社会起業家をめざす人の多くが「売れる商品・サービスを開発するにはどうすればよいか」と考えるようだ。しかし、それを利用する人が、どんな人たちかを熟知していなければ、どんなに営業しても届かず、その結果、「市場がなかった」と言い訳することになる。

佐藤氏は、起業から現在まで、「患者さんの困りごとを減らす」というゴールにブレがない。当事者の声を丁寧に聞き、患者さんやその家族に喜んでもらえるものをいかに早く届けられるか考え続け、地域資源を活用しつつ拡げていく解決のしくみづくりを、ぜひ参考にしてほしい。

 

患者さんの困りごとを減らし、生活の質(QOL)を上げるために

(株)PEER(以下ピア)起業のきっかけは、看護学校2年生の時、白血病の患者さんに出会ったことです。

それまで授業で習ってきたような「患者総体」ではなく、患者さんはさまざまな事情や背景を持ち、困りごとや悩みを抱えている「一人の人」であると気付きました。たとえば、抗がん剤投与などで脱毛が始まった患者さんから看護師が相談を受けたとき、「患者さん用のかつらや帽子が販売されているようですよ」という情報提供だけでは、ベッドの上の患者さんは買えません。いくらくらい必要なのか、どこで入手できるのか、どの程度時間がかかるのかなどの実際的な疑問を解消し、個別のニーズにきめ細かく応えるサービスが必要だと気付いたのです。

そこで、人毛ウイッグ(かつら)を中国から低価格で輸入し、ヤフー・オークションで販売するところから始めました。抗がん剤治療のためのかつらは、平均して1年から1年半ほどの間必要です。主婦がためらいなく購入できる価格はいくらだろうかと考え、友だち10人にヒアリングし、その友だちの友だち各10人にさらにヒアリングを依頼した結果、「月3,000円~4,000円」であることがわかりました。1年なら冬物コートを買うのと同じくらいです。そこで、ウイッグの価格は4~5万円に収まるよう設定しました。ネット販売を続けるうちに、「やはり話を聞いて、見てから買いたい」という声が多くなったためオフィスを借り、その後、個室美容室で提供する事業をスタートしました。

患者さんが外見を変えずに生活できるようお手伝いすることは、つらい治療に前向きに臨むための後方支援です。そのため、かつら購入後のパーマなどのメンテナンスも比較的低価格で行っています。人毛ウイッグは退色してしまうのでカラリングは必須です。たとえば、学生の場合は校則で黒髪と規定されている学校がほとんどですし、お子さんの結婚式のために和装のセットをしてほしいというご希望もあります。また、いったん脱毛して生え変わるとくせ毛になるため、白髪やくせ毛とウイッグのバランスを取りながら、生えそろうまでの手入れが必要なのです。

 

ニーズに寄り添い、しくみにして拡げる

ガンの場合、治療に伴う身体や生活の変化は突然降りかかるので、患者さんの不安や悩みも大きく、精神状態も揺れた状態で来店されます。まずお話をよく聞き、病気がなければ続いていたはずの「いつものくらし」に近づけるように、情報提供も含め、総合的なお手伝いをします。

たとえば、入院日数が制限される昨今、患者さんが交流できる機会は減っています。そこで、「茶話会」を定期的に開催しています。ピアの茶話会に参加した患者さんがとても明るくなると気付いた病院の看護師が見学に来るようにもなりました。

また、個別に相談したいという方には「よろず窓口」を設けています。患者さんには、医療者に直接聞きにくいことや誰に相談したらいいのかわからないことがいろいろあります。そのようなお悩み・お困りごとをお聞きし、適切な窓口やサービスを紹介したり、患者さんの代わりに担当医に連絡したりします。

ピアにとって、「茶話会」や「よろず窓口」は、患者さんの生の声を拾い、事業の改善に生かすための貴重な機会となっています。ネット上のコミュニケーションでは決して生まれない、地道な対話を重ねてきた結果、「接遇セミナー」を年に10本ほど、総合病院から請け負うまでになりました。一人ひとりの患者さんに寄り添い、半歩先を伴走するにはどのように接したらよいかについてお話ししています。

 

地域資源を活用して支援する

患者さんを取り巻く多様な問題を解決するには、病院はもちろん、ご家族やお友だち、会社、地域のお店や施設などの理解と連携が必要です。このような「もともとある地域資源」を活用できれば、コストも下がるわけです。ピアは、患者さんが資源を最大限活用するためにも、家にひきこもらないよう、見た目を変えないお手伝いをし、気持ちをフォローし続けることが大事だと考えています。

浜松の店舗以外で、美容室を現在17か所展開しています。直営ではなく地元の美容室への委託です。年商7億に届く大手企業から家族経営の店舗まで規模はさまざまですが、ピアの信念や目的を理解してくれるところとだけ連携するようにしています。個々の患者さんのニーズは多様であるだけでなく、地域による違いもさまざまで、たとえば「名古屋巻きにしてほしい」、「通勤中、ビル風で飛ばないようにしてほしい」、「夏が暑いから涼しいものを」、「なるべく安いほうがいい」など、地域をよく知っている地元の美容室だからこそお応えできることも多いのです。ピアは、社長・店長や美容師と1カ月ほど話し合いを重ねたうえで、委託が決まれば、地域の病院との関係づくりまでフォローしますが、半年もするとお店側だけで回るようになります。

 

今後も、ピアが患者さんのニーズを代弁して、具体的な解決策を提案して実際にやってみて、他社が参入できるようにする(ことによって拡げる)にはどうすればよいか、日々考え、挑戦し続けます。

 (文責:棟朝)

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